古事記を英語で読む6

黄泉の国3

Izanaki now thought it was safe to go home, but he saw his angry wife running after him. so Izanaki moved a big rock to close the entrance to the Land of Yomi.
His dead wife Izanami said these words of goodbye from behind the rock.
“I wil kill 1000 of your people every day!”
So Isanaki replied.
“Then I will build 1500 houses in which babies can be born.”
As a result, 1000 people die and 1500 people are born each day.

ここは英語でも内容はよくわかる。
私には「古事記」の原文が心にしみるような気がした。

伊耶那美命言はく(いざなみのみこといはく)
愛(うつく)きし我(あ)がなせの命(みこと)
如此為(かくせ)ば汝(いまし)の国の人草(ひとくさ)
一日(ひとひ)に千頭(ちかしら)を絞(くび)り殺(ころ)さむ
爾(ここ)に伊邪那岐命 詔(の)りけらく

愛(うつく)しき我がなに妹(も)の命(みこと)
汝然為(いまししかせ)ば吾(あれ)一日(ひとひ)に千五百(ちいほ)産屋(うぶや)立てむ
是(ここ)を以て(もて)一日(ひとひ)に必ず千人(ちびと)死に
一日(ひとひ)に必ず千五百人(ちいほびと)なも生まるる。

天御柱(アメノミハシラ)の周りを互いに回って、おたがいにその美しさをほめあい、国を生み、神産みをしてきた二人、伊邪那岐命と伊耶那美命は、a big rock 千引きの岩によって隔たれてしまう。

里中満智子さんのマンガではこの部分を

「ようやく地上へ戻った伊邪那岐命は結界を築き、妻に別れを告げます。
日本初の離婚です。
その時妻は、
まず
「愛するあなた」と呼びかけます。
夫も
「愛する妻」と応えます。
怒っていても、おそれていてもまず愛を告げる・・・いいなあ」

と書いている。

さて4月18日の「古事記を英語で読む2」で、伊耶那美命が生んだ神々は35、という話をのせた。古事記原文には、左の赤丸の中のように書かれている。

是(こ)は伊邪那美命未だ神避(かみさ)らざりし以前(さき)生めリ 唯(ただ)意能碁呂島(オノゴロジマ)は生めるに非ず 亦(また)蛭子(ひるこ)と淡嶋(あわしま)とは子の例(たぐい)に入らず也

と二行に分かれて注釈のように書かれている。

ここには蛭子と淡島は生まれた子に勘定されていないことが書かれている。
蛭子というのは「骨のないヒルのような子」として、葦船に乗せられて海に流されてしまう。

実は蛭子が流れ着いて神として祀られているところがある。

兵庫県の西宮神社である。
ここには蛭児神社(ひるこじんじゃ)がある。
御神体は蛭子命で、伊邪那美命と伊耶那美命の最初の子どもと説明がホームページにあった。
私の知っているところでは、京都の八坂神社にも蛭子神社がある。この八坂神社と大阪の今宮戎神社とは蛭子でつながっている。

ウィキペディアによると

「蛭子命の漂着の伝承は各地にあるが、その代表が兵庫県西宮市の西宮神社とされている。西宮神社はえびすという名の神を祀った神社としては現存する記録上で最古であるため、全国のえびす神社の総本宮とされる。また江戸時代から明治にかけて、えびす=蛭子説に基づいて祭神名をえびすから蛭子に改めた神社も存在する。」

海に流されてしまった可哀想な生い立ちだが、神としてその存在が認められていることに安堵感を覚える。

古事記物語は伊邪那美命と伊邪那岐命による国生み、神生みの話から、天照大神にバトンがわたされる。

 

 

 

 

古事記を英語で読む5

黄泉の国2

Izanaki started to run away.
He heard his wife’s voice from the dark,
“You borke your promise!”
But Izanaki didn’t stop.
He continued to run along the long, dark road.
He felt something chasing him.
They were scary female monsters.
Izanaki pulle off a black vine from around his head and therw it at them.
It started to grow roots in the ground and grew into delicious-looking garpes.
The female monsters stopped chasing Izanaki to eat them.

「『約束を破って、私に恥をかかせた」と怒る伊耶那美命が、黄泉醜女(よもつしこめ)という恐ろしい女の魔物たちにあとを追わせたからです。
なんとしてでも黄泉醜女を振り払いたいとお思いになる伊邪那岐命は、頭に結んであった黒い蔓草の髪飾りをほどかれると、それを後ろに投げつけました。
するとどうでしょう。地に落ちた黒い蔓草の髪飾りは、みるみるうちに根をはやし葉を茂らせて、黒くみずみずしい山ぶどうの実をいっぱい実らせたのです。・・・追ってきた黄泉醜女たちは・・・この甘い山ぶどうの実にむしゃぶりついたのです。」(橋本治さんの「古事記」より)

橋本治さんの注に、「投げつけました」についての解説がある。
「追跡者に追われている者が、逃走中にある物を投げると、それが変化して追跡者の進行をさまたげるという話は、世界各地に数多く分布している。たとえばロシアでは、追われた女がクシ・火打ち石・ひうち道具を投げると、森・山・河に変わって悪魔を阻んだという伝説がある」
この物を投げて、何かに変化させるということはこのあとの展開に関係があるので覚えておこう。

 But soon they started to chase him again.
So Izanaki took a comb out of his hair.
When he threw it down onto the ground, bamboo shoots appeared.
The female monsters stopped to eat them, too.
Izanaki thought,
“Now I am safe.”

今度は髪につけていたクシをなげると「たけのこ」に変わってしまった。
このクシは竹製だったのだろう。
(bamboo shoots  bamboo shoot たけのこ の複数形)
ここでも追手を逃れるために物をなげると、変化して追跡者を妨害するという場面が出てくる。

But then he heard a noise like thunder.
It was the sound of 1500 soldiers and the eight evil monster gods running toward him.
Izanaki started to run again.
He was almost out of Yomi, but the monsters were still behind him. Then he noticed a peach tree.
Izanaki threw peaches at the evil group.
It worked!
The monsters ran away screaming.

この部分の英語は、里中満智子さんのマンガで内容がつかめると思う。
1500人の兵士というのは誇張表現だろう。とにかくたくさんの追手がせまってきた。そのときに投げた桃が素晴らしい効果を発揮する。
ここで投げた桃は三個、「其の坂本なる桃子を三箇取りて待ち撃てば」と原文にはある。三個の桃は姿を変えずに飛んでいく。
橋本治さんの「古事記」には、
「桃 古代から桃には呪力があると考えられていた。桃だけが投げられたあともその形を変えていないのは、その呪力のため、わざわざ何かに変化させる必要がなかったからだろう」とある。

さて追っ手をのがれた伊邪那岐命は、ここで最後に伊耶那美命と対面する。

 

 

古事記を英語で読む4

黄泉の国

 In a deep,dark place underground, there was the Land of Yomi, the land of the dead.
Izanaki walked to the door  of the big palace of Yomi.
He called out to his dead wife, “My dearest wife, come back home with me.”
Izanami answered.
“My dearest husband, I wish you had come earlier.
I have already eaten food cooked in this land.
Once you eat that food, you cannot leave.
But let me go and ask the gods of Yomi if I can leave with you.
Just promise me not to look inside.”
“I promise.”

「美しい私の妻、伊耶那美命よ。あなたとわたしとで作らねばならない国は、まだ作り終えてはいないのですよ。ここにいてはいけない。いっしょに帰りましょう」
「くやしいと思います。どうしてあなたは、もっと早くおいでになってくださらなかったのですか。
私は黄泉の国のかまどで料理されたものを食べてしまいました。
わたしはもう黄泉の国の者なのです。 わざわざ黄泉の国までおいでになってあなたのお心を、ありがたく思わなければいけません。
そのお心を思えば、私だとて帰りたいと思うのです。ですから私は、そのことを黄泉の国の神々とご相談いたしましょう。
お願いが一つあります。どうか私がその黄泉の国の神々と話し合っている間、中を覗かないでください。私の姿を見ないでください。」(橋本治さんの「古事記」より)

Izanaki waited, but Izanami did not return.
Izanaki became worried and broke his promise.
He looked inside the door.

見てはいけないという約束を破ってしまった伊邪那岐命が見たものは、

It was very dark and smelled very badly.
Izanaki went inside and saw his wife’s dead body with baby flies coming out of it.
Eight gods of the Land of Yomi were also sitting on top of it.
Although they were called gods,they were actually evil monsters. Izanaki started to run away.
He heard his wife’s voice from the dark,
“You broke your promise!”

橋本治さんの「古事記」から、その部分を抜書きすると、

「暗い奥で、青白い炎のようなものが光っています。ゴロゴロときみのわるい地鳴りのような音がします。くさったようないやな匂いがしました。
・・・動いていると思われたのは、ウジ虫でした。暗い中に横たわっている伊耶那美命の体の周りを、びっしりとウジ虫がとりまいているのです。
横たわった伊耶那美命の頭の上には、たいそう醜悪なそして大きな魔物が座っていました。・・・頭、胸、腹、股、両手、両足の先に座っているのは、神とは名ばかりの醜悪な魔物たち、ー「雷(イカヅチ)」と呼ばれる黄泉の国の神々でした。」

橋本治さんの「古事記」には、「雷」の説明が注として記されている。

「原文には『大雷、火雷、鳴雷、伏雷、土雷』などと記されている。古代中国では雷は春から夏に地上に降りて雷獣というものになると考えられていた。雷獣は秋から冬にかけては土の中に伏していて、豚や羊に似て、食べることもできるとされていた。それから考えると、ここの「伏している雷・土の雷」というのも、雷を雷獣のようなものと考えていたことから思いついたものだろうー略ー」

(上に引用した、こうの史代さんのマンガには、橋本治さんの紹介している5人の雷の他に、黒雷、折雷、若雷の3人が描かれていて、合計8人の神の姿がわかる)

「約束をやぶったわね!!」と怒る伊耶那美命。
古事記の原文では「吾に辱見せつ(あれにはじみせつ)」とある。
橋本治さんの「古事記」には、「わたしに恥をかかせましたね!」と訳されている。

里中満智子さんのマンガでは、ギリシャ神話にもよく似た話があると紹介している。
古事記とギリシア神話によく似た話があるというのは、人間というものの性質なんだろうか?
里中満智子さんは「男ってどうしてこうなんでしょう? 愛する妻が生き返るチャンスなのにがまんできないなんて・・・」と書かれている。確かにそうかもしれない。

さて、このあと伊邪那岐命はどうするのか?