シャーロック・ホームズ 9

The Red-Headed League - Part One 1

今月は「赤毛組合」「赤毛連盟」「赤髪組合」「赤髪連盟」などと翻訳されている、シャーロック・ホームズの作品の中でも有名なもの。
「シャーロック・ホームズの冒険」
The Adventures of Sherlock Homes 
(1892年)のなかに収められている。

「初歩からのシャーロック・ホームズ」(北原尚彦著・中公新書ラクレ)によって内容を紹介すると、
「ホームズは燃えるような赤毛の持ち主、質屋のジェイペズ・ウィルスンから依頼を受ける。ウィルスンは店員のスポールディングに勧められ、赤毛の人間だけが入れる「赤毛組合」の入会試験を受け、見事合格した。赤毛組合の事務所に通っては簡単な作業をして報酬をもらっていたが、ある日行ってみると「赤毛組合は解散した」という張り紙がしてあったのだ。関係者も全く連絡が取れず、不審に思ってホームズに相談したのだ。
 ホームズは早速調査を開始する。そしておかしな事件が、大犯罪につながっていたことが明らかにされるのだった・・・。」

One autumn day, I visited my friend, Sherlock Holmes.
He was talking to a man in his fifties with red hair.
Holmes said,
 “Watson! Come in and listen to Mr.Jabez Wilson tell us his strange story.”
 “All right,”  I said and took a seat.  The Mr.Wilson started to talk.
 “It all started with this newspaper advertisement.”
  And he showed us the ad.

*advertisement; 広告、宣伝
*ad : advertisement の省略形

 It said, “The Red-Headed Leagee is now looking for new members.
 You will get paid four pounds a week for a simple job.
 We are looking for healthy men older than 21 with red hair.
 If you are interested, please come to our office on Fleet Street at 11 a.m. on Monday.”

*pound; ボンド(イギリスの貨幣単位)
*red-headed; 赤毛の、赤い頭髪の
*league; 同盟、連盟、(同室の)グループ

 Holmes smiled and said,
 “So , Mr.Wilson, tell us what happened.”
 “Well, I own a small shop in Saxe Coburg Square.
 A man named Vincent Spaulding works as my assistant.
I’m not making that much money.
But Spaulding said he wanted to learn the skills to be a shop owner and said he could work for a low salary.”

*Wilson氏は質屋を経営している。ここではそこまでは書かれていない。
質屋の場所をSaxe Coburg Square と書いてあるが、原文は
at Coburg Square,near the City
となっていて、Saxe が抜けている。実はこのあと、Wilson が事件に巻き込まれたようなので自分の店に帰るときの様子をホームズに
I went home to Saxe-Coburg Square,
と言っている。私はイギリスの住居表示については全く知らないので、どのように表現するのかわからないが、住所を略して表現する方法があるのかもしれない。
イギリス人にとってはどちらも同じように感じているのだろう、と思う。

 ところで質屋の経営を学ぶためにと、普通より低いサラリー(salary; 給料)で働くSpaulding。なにやら怪しい。
 ここでは説明がないが、質屋の仕事がいそがしいのは夕方。これもあとで関係があることがわかる。

 “Interesting…”
 Wilson continued,
 “About two months ago, Spaulding showed me the advertisement.
He said that the Red – Headed League was created by a very rich man with red hair.
When the man died, he left a message.
It said, “I want to help red-headed men, so I am leaving money for them.”
 Spaulding told me he was jealous of me because I had a chance to earn money doing a simple job.
 It sounded good, so I went to their office on that Monday.  Spaulding came with me.”
  “Okay.   What happened next?”

*jealous; ねたんで、嫉妬して

「オーケー、次は何が起こったのかね?」ホームズはたずねる。
いよいよこの話が動き出す。

ところで、イギリス人男性の赤毛とはどんなものだろう。
ネットで左のようなヘンリー王子と歌手のエド・シーランの写真があった。イギリスには赤毛に対する偏見があるようだが、詳しいことはわからない。そういった背景から「赤毛の人を助ける赤毛組合」ができたのかもしれないし、この小説が誕生したのかもしれない。

 

 

 

奥の細道を英語で12(最上川1)

After visiting the mountain temple,I wanted to ride a boat down the Mogami River.
This river often appeared in old Japanese poems.
We decided to wait for a good day to go down the river.
While we waited, local people came to talk to me.
They wanted me to give a lesson on haiku.
They said they had practiced haiku, but they knew their style was old-fashioned.
They wanted to learn the latest trends from me.
I started making many haiku with them.
I didn’t think something like this would happen, but it made me happy.

最上川のらんと、大石田と云所に日和(ひより)を待。
爰(ここ)に古き俳諧の種こぼれて、忘れぬ花のむかしをしたひ、 芦角一声(ろかくいっせい)の心をやはらげ*、此道にさぐりあしゝて、新古(しんこ)ふた道にふみまよふといへども、みちしるべする人しなければと、わりなき一巻(ひとまき)残しぬ。
このたびの風流、 爰(ここ)に至れり*

*最上川のらんと; 最上川の舟下りをしようと、
*古き俳諧の種こぼれて、忘れぬ花のむかしをしたひ; この地には古く俳諧の「種」がこぼれ、俳諧の「花」が咲いていたというのであろう。しかし、寛永・延宝・天和・元禄と、俳諧は激しい変化の渦中にあった。遥かなこの地では、その変化を知ることはできなかったという。
*芦角一声の心をやはらげ;芦角とは辺鄙な田舎という程度の意味。鄙びた俳諧だが、人々を慰めることができる、という意味。
*此道にさぐりあしゝて、新古(しんこ)ふた道にふみまよふといへども、; 情報の乏しい鄙にいると、俳諧道に入ってみても、今起きている伝統俳諧への批判を理解できないまま、古今の俳諧の道に迷ってしまう、の意味。
*わりなき一巻; 仕方なく、俳諧の指導書を書いて与えた。

本治さんの訳を引用する。

「最上川を舟で下ろうと考え、大石田という場所で天気が好転するのを待つことにした。
この地には古い俳諧につながるものが生きていて、本来のおもしろさを求める気持ちを、人々がまだ持ち続けてくれている。ほんの片田舎なのに、風雅の道で心をなぐさめもし、足先で行くべき方向を探るようにして、いま流行の俳諧に身を寄せるか、古来の道を守ろうかとまよっている。だが、こちらが正しいのだと教えてやる指導者がいない。そこで、やむをえず、歌仙一巻を巻き、それを残していくことにした。こんどの風流を求める旅は、はからずもこんな結果を生み出すことになった。」

*ここで出ている歌仙とは、もともと連歌の一つの形式だったそうだ。長句(五・七・五)と短句(七・七)を交互に連ねて全部で36句。これで一巻とするそうだ。
この形式を自由自在に使いこなし、元禄時代に俳諧という文芸の頂点を築いたのが芭蕉とその門弟だった(長谷川櫂「『奥の細道』をよむ」より)。
俳諧の流行があり、その最先端の芭蕉に教えを請う、というのが大石田での出来事だった。

芭蕉はこのように各地を回りながら、俳諧の最先端を広めていったとも言える。

奥の細道を英語で11(立石寺)

Sora and I were in Yamagata. The local people suggested we visit a temple called Ryushaku-ji.
It was built in the mountains in the Heian period.
We decided to go there.
The mountains were rocky and had many big old trees. Stones were covered with green moss.
Many of the temple buildings were closed and no one was around.
It was so quiet.
From cliff to cliff, I carefully walked up the rocky paths.
I prayed at each of the buildings, one by one.
When we went higher up, the view of the mountains and valleys was amazingly beautiful.
My mind became clear and refreshed.
I did say it was quiet, but actually there were many cicadas singing under the summer sky.
It was their time to live.
But there was a strong sense of silence at this moss-covered mountain temple.
The silence was more powerful than the cries of the cicadas.
It almost felt like the quiet air took in the cicadas’ songs.
I wrote a hiku.

        Into rocks they go
           Cicada cries of summer
                Silence all around

 *The local people suggested we visit a temple called Ryushaku-ji. ; 土地の人達は私達が立石寺というお寺を訪れるべきだと提案した。
 *moss; こけ
 *amazingly; 驚くほど
 *cicada; セミ
 *It alomost felt like the quiet air took in the cicadas songs.; まるで静寂な雰囲気が蝉の声を吸収してしまったかのように感じられた。(=It alomost felt as if….)

山形領に立石寺(りゅうしゃくじ)と云山寺(いうやまでら)あり。
慈覚大師(じかくだいし)の開基(かいき)にして、殊(ことに)清閑(せいかん)の地也。
一見すべきよし、人々のすすむるに依て、尾花沢よりとって返し、其間(そのかん)七里ばかり也。
日いまだ暮ず。
麓の坊に宿かり置て、山上の堂にのぼる。
岩に厳(いわお)を重て山とし、松柏年休(しょうはくとしより)、土石老(どせきおい)て苔滑(こけなめらか)に、岩上(がんじょう)の院々扉を閉(とじ)て、物の音きこえず、岸をめぐり、岩を這(はい)て、仏閣を拝し、佳景寂寞(かけいじゃくまく)として心すみ行(ゆく)のみおぼゆ。

           閑さや
                岩にしみ入る蝉の声

*松柏年休;松やひのき、槇柏などの年老いた樹木のこと。

橋本治さんの訳を見てみる。

「山形領に立石寺という山寺がある。慈覚大師が開かれた寺で、とりわけ清々しい場所だからぜひ見に行くように人々がすすめてくれた。そこで、尾花沢から七里ほどもどった。
日暮れにはまだ時間があったので、麓の宿坊に泊まる手はずをしておいて、山の上の僧堂まで登った。山は大きな岩を積み重ねたような形で、松、杉、柏など常緑の老木が生い茂り、地面にも石にもびっしりと苔がつき、岩の上に建てられたどの寺も扉を閉めていて、物音一つきこえなかった。
崖から崖へ、岩から岩へと巡り歩きながら、次々に寺を拝観して回った。景色はこのうえなく美しく、あたり一帯が静まりかえっていて、心が澄みきっていくのを感じたものである。

         静かさや岩にしみ入る蝉の声        」

長谷川櫂「『奥の細道』をよむ」からこの句のことを引用。
『閑さや」の句は古池の句と似た構造をしている。「岩にしみ入蝉の声」は現実の音、一方、「閑さや」は心の世界という次元の異なるものの取り合わせ。「岩にしみ入蝉の声」という現実の音をきっかけにして芭蕉の心のなかに静寂な世界が開けた。それが「閑さや」という言葉になった。この句は典型的な古池型の句なのだ。

この句については様々な議論がある。アブラゼミなのかニイニイゼミなのか、単数なのか複数なのかなどなど。でもこういった議論が巻き起こるのはこの句が魅力的だからかもしれない。
次回は最上川。