蝶の足は何本?

緊急事態宣言がまだ出されていない時の奈良、大仏殿。
3月の下旬。桜もやっと咲き始め、満開になるのはもう少しかなあ、という時。
平日なのもあわせて、観光客はとても少ない。
外国からの観光客はほとんど見ない。

大仏さんの右にある飾りに注目。
花瓶に花と虫の姿が見える。

姿形は蝶のような虫。

一見したところ蝶のように見える。
しかしこれは学問的に言うと蝶ではない。
なぜかというと「足が8本」あるからだ。
足が8本ある虫は現在では「クモ綱」に分類される。
蝶は「昆虫綱」に分類され、足は6本。いわゆる昆虫の仲間である。
では大仏殿にあるこの虫は何なんだろう。
まわりにはこれについての説明を書いたものは見当たらなかった。

この蝶のような飾りを見て、「蝶?、でも足が8本もある」とつぶやいている親子連れの小学生もいた。よく勉強していると感心、感心。

ブログを見ると、「8本足の蝶」についていろんな意見がある。
神格化してみたり、異型の生き物であったり様々な意味づけがあるようだ。

私の思うところは「この飾りを作った人は蝶の形の飾りを作ろうと思った」と思う。
ただ「蝶について正しい姿を知らなかった」と思う。
頭の中にある蝶のイメージで作ったというのが私の意見。

なぜかというと、明治維新までの日本人には「昆虫」という概念がなかったからだ。
「虫」という概念で、蝶もトンボもクモもムカデもとらえていた。
「蝶は昆虫の仲間」という考え方が広まったのは、明治維新以後のものであると私は思う。
生物の分類学の基礎を作ったリンネは1700年代の人。江戸時代の人だ。
大仏殿は二度の焼失でそのたびに再建されている。現在の大仏殿は江戸時代ものだ。

大仏の横の花瓶と蝶のような飾り物もこの時期に作られたのではないだろうか。
そうすると江戸時代の日本人の感覚、「蝶も虫一般」だから足による分類があることは知らなかったと思う。
「足が6本でも8本でもそんなに違いがない」と多くの日本人が考えていたから、この8本足の蝶のような虫を見ても違和感がなかったのでなないだろうか。

遠足や修学旅行で訪れる小中学生はこの「不思議な生き物」の飾りを見てどんな事を言っているのだろうか?と気になるし、質問をぶつけられた先生は何と答えているのだろう?
大仏殿でこの「蝶のような不思議な虫」を見て、日本人の虫にたいする見方をいろいろと意見を出し合うのも面白いとも思う。

この日は学校の遠足も修学旅行生もいない静かな大仏殿だった。

柱くぐりも人が少ないので、何度も楽しんでいる人もいた。 これがいつ頃からあったのか、諸説あるそうだ。再建前にもこのような柱があった、という文献もあるそうだ。 そうすると、再建する時にわざわざこの柱を作ったのかもしれない。

とにかく、こんなに静かな大仏殿は初めてだった。

お昼は「釜飯」で有名な「志津香」でいただく。
行列ができていたが、それほど待つことはなかった。

興福寺の五重塔、国宝館の「阿修羅像」を見て帰ることにした。

3月末の奈良の様子は静かだったが、5月の連休中の奈良はどうなのだろうか。
緊急事態宣言がはやく解けてほしいが、それには私達一人ひとりの行動にかかっているのだろうと思う。