狙われた街

ウルトラセブン 第8話

読売新聞5月28日(日)の編集手帳に次のような記事が載った。

「『ウルトラセブン』にでてくるメトロン星人は、手の込んだ謀略を人類に仕掛けた。周囲の人が敵に見えるようになる赤い結晶体を市販のたばこに仕込む。
互いの信頼感を壊し、傷つけ合わせた後、悠々と地球を乗っ取ろうとする。
見直してみると、半世紀過ぎた今の方がより真に迫る設定のような気がする。
近頃、「赤い結晶体」の片りんを感じるのがインターネットである。
虚構や偏った主張がソーシャルメディアに次々投稿されるのを眺めるうち、荒唐無稽な陰謀論に染まった人たちがいる。ウクライナ侵略しかりである。
「ゼレンスキー政権はネオナチだ」とするロシアの偽情報が拡散したのは、惑わされる人々がいかに少なくないかを物語る。本誌の長期連載「情報偏食」が報じてきた。
人と人ばかりか、国と国の分断にも影響している。争いごとがやまない裏に、信頼感が傷つくことばかり起きている。
メトロン星人編は次のナレーションで終わる。
「このお話は遠い遠い未来の物語です。人類は宇宙人に狙われるほどお互いを信頼してはいませんから」
放送当時より、今がもっとひどいかもしれない。」

ネットでこの作品について調べてみると、1967年(昭和42年)11月19日放送で、
視聴率は、29・6% あったそうだ。

さっそく近くのTSUTAYAに行って、この作品を探した。

ありました。
左の写真のようにウルトラセブンのDVDの第2巻にあった。
話は第8話。「狙われた街」。

あらすじは読売新聞の「編集手帳」にあるとおり。

ネットで見るとウルトラセブンの中でもかなりの高評価の作品のようだ。
現在でもこの作品についての解説やブログでの紹介記事があるほどだ。
しかしその多くはウルトラセブンやウルトラマンなどの作品紹介や撮影に関わっての情報、作品へのツッコミなどが多い。もちろん私がビデオを見ていても、「宇宙人が自分のことを宇宙人と言う?」とか「ちゃぶ台を挟んでメトロン星人と話し合う?」などツッコミどころが多いのは確か。でも、読売新聞の「編集手帳」が危惧するような「最後のナレーション」への現実感と不安感にせまっていくものは少なかった。

コロナの約3年間に多くのフェイク情報が流れた。
コロナ陰謀説にはまり込んで、家庭破壊の危機や、実際に離婚したニュースが流れた。
もちろん今回のロシアのウクライナへの侵略もそうだ。情報合戦、偽のニュース、何が本当で何がウソなのかわからない状態になってきている。

読売新聞の5月29日(月)の朝刊のトップに、「情報偏食・ゆがむ認知」の記事が載った。
上記の「編集手帳」に紹介されていたものだ。

記事の最初にあるキャプションには、「社会のデジタル化は、子どもたちの成長にも影響を及ぼす。
インターネット上にあふれる真偽ない交ぜの情報に無防備なまま接すると、思考や想像力、判断する力が侵されかねない。
「チャットGPT」に代表される生成AI(人工知能)の台頭も、「学び」を変容させる可能性をはらむ。
第3部では、教育現場に迫る危機を報告する」
と説明する。

新聞記事にはネット情報に翻弄される子どもたちの姿が紹介されている。解説として「正確さより関心(アテンション)を集めることが優先される「アテンション・エコノミー」の原理で動くネットの世界。閲覧履歴などを基に利用者が好む情報が「おすすめ」として押し寄せ、偏った情報ばかりに包まれるという危険が潜む。・・・」

30面には「子ども なぜネット信じ込む?」として専門家などの意見を紹介している。

京都大学の脳科学者の明和(みょうわ)政子教授の意見として「前頭前野が未成熟な段階にある子どもの頃は、物事を感覚的に捉えてしまい、ネット情報の強い刺激に影響されやすい」と指摘している。
記事によると「大脳辺縁系が思春期に急激に成熟するのに対し、前頭前野が完全に機能するには25年以上かかるとされている」そうだ。

さらに記事には「思春期は、特に周囲の環境に影響されやすい。現実世界よりネット空間に居心地の良さを感じると、脳に快楽をもたらす「報酬系」と呼ばれる神経回路が活発化し、偏った情報ばかり集めたがるようになる。」と書かれている。

うーん、これはメトロン星人の新しい戦略か。
インターネット、SNS,ネット情報で人間関係が壊れていくことが多くなっているという不安感。それが学校教育の中にも出てきていると読売新聞は提起している。

人と人をつなぐ教育、人間関係を育む地域社会、かつて当たり前のように言われていたことが薄れているのが現実なのだろう。
人間の歴史、文学、哲学、などを学び直さなくてはならないのだろうか。