魔改造の夜 その7

技術者養成学校7

第7回目。講師は「太刀川英輔さん」。
太刀川英輔(たちかわえいすけ)さんはデザインストラテジスト。ビジネスとデザイナーを繋ぐ人ということらしい。

数々の賞を受けている人で、ウィキペディアでみると日本デザイン賞などずらっと受賞歴が並んでいる。

左の「東京防災」という本は、2015年9月1日に東京都が都内の全世帯に配布した防災ハンドブック。
私もあまりに評判なので買ってみた。この本をデザインしたのが太刀川英輔さん。
太刀川さんのユニークな発想に学ぶ学習会などが進んでいるそうだ。

今回の技術者養成講座のテーマは
「お掃除ロボット走り幅跳びに学ぶ アイデアの出し方」

このときの魔改造の番組は、左のようなお掃除ロボットを改造し、走り幅飛びをさせてその飛行距離を競うというもの。

優勝したのは左の写真のようにロケット推進装置をつけた掃除機。私もこのときの魔改造の放送を見ていたがロケットエンジンで飛ぶ姿にはびっくりした。他のチームはジャンプ力を競うことを目的とした改造だった。
太刀川さんは学生に尋ねる。「技術で勝ったのか、アイデアで勝ったのか?」

太刀川さんはいう。「創造力を才能の問題にしてはいけない。」
「自然界の進化の過程を見てみると、生物はデザイナーなしに素晴らしいデザインに仕上がっている。
例えばヘビから足がなくなり、猿から尾がなくなるという「欠失」
キリンの首が長く、象の鼻が長くなる「変量」
枝や花に似せて獲物を待つ「擬態」
これらを考えて整理すると上の9パターンに分類できる。」といって、上記の表が示された。
なるほどこの9つのパターンを利用するとバラエティに飛んだ発想が出てくくる。

実習として学生に与えられた課題は「ミキサーのジュース投げ」。ミキサーで作ったジュースをいかにして遠くまで飛ばすか。
学生たちはそれぞれ上の表を使って考えていく。

・劇団ひとりは写真のようなミキサーにエアガンを突っ込んだものを考えた。
・その他に劇団ひとりのような「水鉄砲系」のもの。
・注射器でジュースを飛ばすもの。
・ジュースを水風船に入れて振り回して飛ばすもの。
・ホースに入れてぐるぐる回してジュースを飛ばすもの。などなど

今回の講義は「アイデアの出し方を学ぶ」といっていいだろう。
太刀川さんは「アイデアを出すということは練習で身につく。それは才能ではない。筋トレと同じだ。上の表をもとにするなどして、一つのパターンを決めたらそれを何回も何回も、どこの場面でも使ってみる。その繰り返しが短時間でアイデアにたどり着くことのなる」という。
最後に『世の中は変わっていく。今使っている技術は100年後には使われていないだろう。そのとき新しいアイデアが大事になる。そしてそこで発生するエラーが大事なのだ。失敗を恐れてはならない・・・・」と講義がしめくくられた。

 

 

 

 

魔改造の夜 その6

技術者養成学校6

第6回目の講師は、「大阪大学基礎工学研究科教授」の石黒 浩さん。
石黒さんはアンドロイドで有名な人だ。自分自身にそっくりなアンドロイドを作ったり、桂米朝さんのアンドロイドを作ったりしている。
私も桂米朝さんのアンドロイドはなんば高島屋で見ている。

テーマは「『クマちゃん瓦割り』から学ぶ 生き物より生きているロボット」なんだが、最初から石黒先生は「クマちゃんの瓦割りを見たけど、改造の目的がわからない」とおっしゃる。「改造とはもともと大事にしているものをより拡張する、のならわかるが、頭だけを残すんだったらそれは部品提供にすぎない」とも。
さて番組進行上と苦笑いしながら石黒先生のだしたお題が「生き物より生きているロボット」。

石黒先生は「生き物らしい要素」として
①動くこと
②身を守ること
③人間が働きかけると反応する
④体を動かしても音がしない
とあげる。これをもとにして「生き物より生きているロボット」を学生たちの課題とした。

このとき、参考に出されたのが「ユースレスボックス」。
人工知能の父といわれているマービン・ミンスキーが考えたものと伝えられている。
左の写真のように、スイッチがあり、スイッチを押すと箱が開き、中から指のようなものが出てきてそのスイッチをもとに戻す動きをする。スイッチオンにしたらスイッチオフにしてくるというもの。

石黒先生の出された課題は、
・スイッチをオンにするとスイッチをオフにするる「役に立たない箱」を作ってください。
・その際、最も生き物らしくなるような動作を作ってください。生き物を作ることが目的です。

学生たちは与えられた課題を自分なりに考えて作ってきた。そこからいくつかを紹介すると、(写真と文章とは同期していない)

①箱から出てくるのはカニの手。
製作した学生からは、音がおおきにのが難点と反省点が出された。
石黒先生からは、
音が気になるなら、音の出ないモーターもあるが、磯辺の音を出すとか逆の利用方法もある。
エサを取るとか、石をどけるとか、カニの生命感や世界観を考えると違う発想が出てくるかも。

②ネコが隠れていて、周りを見てスイッチをオフにする箱。
石黒先生からは、
センサーによる顔認識だが、生き物は顔認識ができないとだめなのか、ということにも発展する。顔認識できないネコは生き物じゃない? 
顔認識を前提にした生き物ロボットを作ることはできるが、今回はできるだけ単純なものでいかに生命感を出すかを考えてほしかった、一番単純な生き物をテーマにすると、生き物らしさが見えてくるかもしれない。

③人がいなくなったのを確認してからスイッチオフにしてくるもの、
④スイッチが横向きに付いてるもの(そのほうが中に入っているものにとって、見やすいから)で何種類かのランダムな動きをする、などなど。
石黒先生からは、
人がいなくなったらエサを食べるのは、生き物の特徴ですね。
でも1時間そこに人が立っていたらどう動きますか。何回かくりかえすと生き物は慣れてきて人がいてもエサを食べるかもしれない。そうすると人がいてもスイッチをオフにする動きを考えてもよい。変化があると、それは生き物らしくなるかもしれない。横向きにスイッチを置くのはいいアイデア。その動きをネコらしくするなら、ちょっとつっついてみてからオフにしてみたりするなど、ネコの気分が感じられると生命感がでるかも。気分と同調した動き、動作を工夫するのもいいだろう。
 突っ込みの多い石黒先生の批評だが、しかし学生たちにはすばらしい経験・体験になったにちがいない。褒めるだけでは進歩はない、次の課題を見えるようにする。
一流の科学者とその卵たちの授業のように思えた。

この他にも学生たちの作ったロボットはあったけれどここまでとして、石黒先生は言う。「義手や義足を使っている人は人間ではない、という人はいないだろう。しかしかつては手や足が不自由な人を人間扱いしていない時代はあった。今は技術の進歩でそういう時代ではなくなった。だから(これが発展していけば)機械にも命が宿る可能性があると思いませんか。機械に生命感を感じる可能性がありませんか。」

左の写真は科学雑誌サイエンスの表紙。特集「現在生きている100人の天才」より)

私はこの話の展開でチューリングテストのことを思い出した。
石黒先生は著書「人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか」(講談社)で次のように書かれている。
「チューリングテストは機械(人工知能)に人間と同様の知能があるかどうかを見極めるテストである。キーボードとモニターを通して会話をし、その受け答えによって相手が人間か機械かを判断するもので、人間と区別がつかなければ(機械だと見破られなければ)その機械は「チューリングテストをパスした」ことになる。数学者であり現在のコンピュータの基礎となるチューリングマシンを構想したアラン・チューリングが、1950年の論文「計算機と知能」において提唱したのでこう呼ばれている。
 ただ人間と騙せればよいだけなら、テストをパスする人工知能はすぐに作られるだろう。しかし、何が人間と機械を分けるのかを説明できなければ、すなわち理論的に人間を定義できなければ、最終的にそれが人間か機械かを判断することは不可能である。
 そもそも僕は、チューリングテストが前提としているもの自体、古くさいと思うのである。一般的な意味では、これは「人間と機械を区別するためのテスト」であり、「機械が人間として扱われる」という可能性を十分にテストするものではない。
 しかし、それが「人間として扱われるものとそれ以外のものを区別する」テストだと定義されたなら、人間を完全に理解しモデル化できれば、同時にチューリングテストのゴールも定まることになる。そのとき、材料、すなわち肉体の材質は、もはや問われることはない。」
こうして石黒先生の意識は、無機質で造られたロボットが人間として認めることができる世界へ進んでいく。
人間とは、生命とは、生きているとはという「根源的な問い」につながっていく第6回技術者養成学校となった。

 

 

 

魔改造の夜 その4

技術者養成学校4

第4回目の講師は「東京大学教授 理化学研究所チームリーダー」の佐倉 統さん。
テーマは「ペンギンちゃん大縄跳びに学ぶ ー 人間と機械のチームワーク」

この番組は「おもちゃのペンギン5体に大縄跳びをさせる」というもの。制限時間内に何回飛べるか、それをきそう。その方法は三者三様だった。

講師の佐倉 統さんは、NHKのサイエンスZEROのコメンテーターも務める人で、専門は進化学を中心とする科学史、科学技術論、サイエンスコミニュケーションに関する研究(ウィキペディアより)。
佐倉さんのホームページには研究室のテーマの一つとして、

「この研究室では、科学技術と社会の「より良い」関係を目指して活動しています。そこには、そもそもどのような関係が 「より良い」のかといった理念的な問題から、実際の科学技術研究開発過程の社会的側面の分析といった事例に即した問題、さらには、科学カフェなどをおこ なって科学と社会のコミュニケーションを活性化するという実践的な問題も含まれています。」

と書かれている。
機械と人間とのよりよい関係、そういった立場から「ペンギンちゃんの大縄跳び」を分析された。

ここで比べられたのは、上の写真左の優勝チームのペンギンロボットと、左の高速回転でペンギン飛ばしたチームだ。学生たちは考える。
優勝チームS陽製作所のロボットはタイマーで自動的にジャンプする。したがって人間はロボットの動きに合わせる。ロープを回す二人は、前の職場から一緒だという古くからの友人。
解説者のスプニツ子さんは、「人間とマシンの美しいハーモニー」と表現していた。
高速ジャンプするロボットを作ったRコーは、センサーでロープの動きを感知するロボットにした。人の動きにロボットがジャンプのタイミングを合わせようするもの。
「人間と機械のチームワーク」と表現されていた。

結果は「人間とマシンの美しいハーモニー」のS陽製作所が勝った。
人が合わせるのか、ロボットが合わせるのか。この技術養成学校でも学生たちが2つのペンギンロボットで縄跳びを体験していたが、どちらもタイミングをあわせるのが難しと感想を言っていた。

佐倉 統さんは、「人間にとって使いやすいマシンとは?」「人にとって優しい機械とは?」という発想の大切さを助言していた。


負けたRコーはロボットを改良してギネスに挑戦した。
その過程で「(設計者)の自分はロープを回していなかった。自分でロープを回すことによって新しい発見があった」という。
またセンサーの位置を真ん中に持ってくることによって、ロープがどの方からペンギンの上を通っても正しく感知するように改良を加えてた。
ペンギンの足も、魔改造の時は足のままだったものをドーナツ状にし、ロープが通過する時に足に引っかからないようにした。
その結果、1分間に170回のギネス世界記録を達成した(ギネス記録にペンギンちゃんの大縄跳びがあるとは知らなかった)。

子どもも大人も、高齢者も同じようにペンギンを飛ばせることができるマシンとなった。「だれでもできる」「だれでも回せる」ということで、「幸せな気持ちが機械によって引き出せた」とRコーの人は言っていた。

佐倉さんは、豊橋技術科学大学の岡田美智男研究室の「ゴミ箱ロボット」を紹介された。
ゴミのそばに動いていくが、ゴミを拾い上げるわけではない。
「そこ!」というだけ。
ゴミを拾ってゴミ箱ロボットの中に入れると
「もっと」と言う。
自分ではゴミを拾わないロボットだ。
佐倉さんは「人が入り込む余地を作る。機械と人の関係をデザインする」という。

人間にとってよいマシンとは?と、考えていく中で、
  作り手、使い手、ロボットの三者で全体が成熟していくことを目指すことが大切ではないか、ということを多くの学生が感想に描いていた。