Sansho-dayu 山椒大夫6

Anju became a different person after she and her brother had a terrible dream.
In the dream, the two were burnt for trying to excape from Sansho-dayu’s place, but the Buddhist stature protected them.
Anju didn’t talk much after the dream.
Her eyes looked far away as if she were thinking about the far future.
Zushio was very worried, but Anju always said,
“It’s nothing. Don’t worry.”

 二人の子供が話を三郎に立聞きせられて、その晩恐ろしい夢を見たときから、安寿の様子がひどく変って来た。顔には引き締まったような表情があって、まゆの根にはしわが寄り、目ははるかに遠いところを見つめている。そして物を言わない。日の暮れに浜から帰ると、これまでは弟の山から帰るのを待ち受けて、長い話をしたのに、今はこんなときにも詞少ことばすくなにしている。厨子王が心配して、「姉えさんどうしたのです」と言うと「どうもしないの、大丈夫よ」と言って、わざとらしく笑う。
 安寿の前と変ったのはただこれだけで、言うことが間違ってもおらず、することも平生へいぜいの通りである。しかし厨子王は互いに慰めもし、慰められもした一人の姉が、変った様子をするのを見て、際限なくつらく思う心を、誰に打ち明けて話すことも出来ない。二人の子供の境界きょうがいは、前より一層寂しくなったのである。

Seasons came and went.
The next spring, Zushio was really surprised when Anju suddenly asked Sansyo-dayu’s assistant,
“May I please go and work in the mountains with my brother?” 

*季節は過ぎ、冬の間は糸を紡ぎ、藁を打つ仕事になった。
春になると、二郎が邸を見回りやってきて話しかける。安寿は厨子王が答えようとする前に、自分から二郎に返答をする。

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それについてお願いがございます。わたくしは弟と同じ所で為事がいたしとうございます。どうか一しょに山へやって下さるように、お取り計らいなすって下さいまし」蒼ざめた顔にくれないがさして、目がかがやいている。

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“Very well. But collecting firewood is a man’s job.
I will let you do that with your brother, but you must have short hair like a boy”
Anju said,
“Of course, sir.
Please cut off my hair.”
With on swing of a knife, Anju’s long beautiful hair was chopped off.

「さて今一つ用事があるて。実はお前さんを柴苅りにやることは、二郎様が大夫様に申し上げてこしらえなさったのじゃ。するとその座に三郎様がおられて、そんなら垣衣を大童おおわらわにして山へやれとおっしゃった。大夫様は、よい思いつきじゃとお笑いなされた。そこでわしはお前さんの髪をもろうて往かねばならぬ」
 そばで聞いている厨子王は、この詞を胸を刺されるような思いをして聞いた。そして目に涙を浮べて姉を見た。
 意外にも安寿の顔からは喜びの色が消えなかった。「ほんにそうじゃ。柴苅りに往くからは、わたしも男じゃ。どうぞこの鎌で切って下さいまし」安寿は奴頭の前にうなじを伸ばした。
 光沢つやのある、長い安寿の髪が、鋭い鎌の一掻ひとかきにさっくり切れた。

The next day, Anju and Zushio went to the mountains together.
Anju climbed higher and higher up.
Zushio wondered why,
“Sister, we passed out working place.”
”You don’t have to worry, Zushio.
Just follow me.”

あくる朝、二人の子供は背に籠を負い、腰に鎌をさして、手を引き合って木戸を出た。山椒大夫のところに来てから、二人一しょに歩くのはじめてである。
 厨子王は姉の心をはかりかねて、寂しいような、悲しいような思いに胸が一ぱいになっている。きのうも奴頭の帰ったあとで、いろいろに詞を設けて尋ねたが、姉はひとりで何事をか考えているらしく、それをあからさまには打ち明けずにしまった。
 山の麓に来たとき、厨子王はこらえかねて言った。「姉えさん。わたしはこうして久しぶりで一しょに歩くのだから、嬉しがらなくてはならないのですが、どうも悲しくてなりません。わたしはこうして手を引いていながら、あなたの方へ向いて、その禿かぶろになったおつむりを見ることが出来ません。姉えさん。あなたはわたしに隠して、何か考えていますね。なぜそれをわたしに言って聞かせてくれないのです」
・・・・略・・・・・・去年柴を苅った木立ちのほとりに来たので、厨子王は足をとどめた。「ねえさん。ここらで苅るのです」
「まあ、もっと高い所へ登ってみましょうね」安寿は先に立ってずんずん登って行く。厨子王はいぶかりながらついて行く。しばらくして雑木林よりはよほど高い、外山とやまの頂とも言うべき所に来た。

*人が変わったかのように寡黙になった安寿は何を考えていたのだろうか。
心配する厨子王、ここから安寿の決心が語られる。

 

 

 

文楽 夏祭浪速鑑


久しぶりに文楽を見に行くことが出来た。
初日に行けるとは思っていなかった。

夏休み文楽特別講演。
第3部サマーレイトショーとしてその
演目は、
夏祭浪速鑑(なつまつりなにわのかがみ)
住吉鳥居前の段
釣船三婦内の段
長町裏の段

夏祭浪速鑑は歌舞伎でもみたことのある演目。人形浄瑠璃となるとどのようになるのだろうか、と興味があった。
そのストーリーは、国立文楽劇場のホームページより引用すると、

「・・・とりあえず、『夏祭』のあらすじをば。ちょっと訳ありで、玉島磯之丞とその恋人である傾城琴浦は、団七九郎兵衛の計らいをもって釣船三婦の家で過ごしていました。団七の義父・三河屋義平次は、金を目当てに、ウソをついて、その家から琴浦をかどわかします。しかし、磯之丞の父に恩義のある団七は、義平次を謀って、琴浦を取り戻します。どう考えても義平次が悪いのですが、騙されて金を取り損ねたとわかった義平次は、みなしごから育ててやったのに恩知らずな奴めが、などと団七をなじりまくるのです。そして、いよいよ我慢ならなくなった団七が義平次を殺してしまう、というストーリーであります。」

いわゆる舅殺しの物語。

主人公の団七は入れ墨をしている。それは歌舞伎から取り入れられたといわれている。 初演は文楽が先で、翌月には歌舞伎に移される。文化文政期の三代目中村歌右衛門が入れ墨を入れて演じたものが大評判となり、それが文楽にも移入されたそうだ。

上の写真はプログラムからの引用。「文楽人形の丸胴」の説明に、入れ墨の団七の丸胴が使われている。全身の入れ墨姿の団七が見得を切ると、それは迫力がある。
団七と舅の義平次との争いは、途中からお囃子のみで大夫の語りは一切ない。
緊張する殺陣が長い時間続く。
途中から人形使いの吉田玉男さんの姿が消えてしまう、義平次の吉田玉士さんの姿も消える。いわゆる人形が意思を持って動いているように見える瞬間だ。
「悪い人でも舅は親」というセリフで終わるが、この団七の行末はどうなるのだろうかと気になる演目。
歌舞伎でも見ているが、人形浄瑠璃のほうが私には印象深かった。
「女殺し油の地獄」では文楽を先に見て、そのあと歌舞伎で見たが、そのときもそう思った。
歌舞伎の役者さんの演技はそれは素晴らしいものだが、人形のほうが私には響いた。

劇場内には大きなマスクをした人形。

客席は中央寄りに座席が指定されているようで、定員の50%にしているように思える。歌舞伎と比べてみると、見に来る人は男性の方が多いように思える。歌舞伎には和服姿の女性も目につくが、文楽はおじさんの姿のほうが目につく。18時開演、20時終了だから外に出るとレストランは閉まっている。
シャツターをおろしている店も多い。

文楽に来た人の夕食はどうしたのだろう。先に食べてきているのかも知れない。中の食堂・喫茶は休憩所になっている。持参の食べ物はそこで食べるようになっている。

入り口のチケットは、歌舞伎の時と同じ様に自分でちぎって指定された箱に入れる。コロナの影響はまだまだ続く。しかし歌舞伎や文楽と伝統芸能が鑑賞できるようになってきたのはうれしい。

なんばの駅までの通路の壁に、文楽のポスターが何種類も貼ってある。

Welcome to the world of Bunraku

そう、文楽、この良きもの。大阪に生まれて文楽に親しめることの嬉しさを感じた日だった。

 

 

7月大歌舞伎

松竹座で7月大歌舞伎が始まった。 久しぶりに歌舞伎見物にでかけた。

見たのは夜の部。演目は、
「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)」と
「恋飛脚大和往来(こいびきゃくやまとおうらい)」のふたつ。
4時30分にはじまり、6時55分に終わるという予定。途中の休憩時間も20分が1回だけ。
歌舞伎の終了後に夕食がとれるという時間設定と思われる。
新型コロナウイルス蔓延防止のため、飲食は8時までとなっているからだろう。

どんな内容かと言うと、「歌舞伎美人」のホームページから引用する。

一、双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)  主筋への義理で人を殺めてお尋ね者になった相撲取りの濡髪長五郎は、南与兵衛の家に住む、母・お幸のもとを訪ねて来ます。実は長五郎はお幸の実子で与兵衛は先妻の産んだ子であり、与兵衛とは異母兄弟です。そこへ、郷代官に新たに任命されることとなり、十次兵衛を名のることを許された与兵衛が代官所から戻ります。お早とお幸は与兵衛の出世を喜びますが、与兵衛に命じられた初仕事は、長五郎を捕縛することでした。実子と義理の息子の間で苦しむ母の姿を見た与兵衛は…。明かり取りの天窓を舞台装置として巧みに利用し、母と弟を救う兄の心情が胸をうつひと幕です。

南与兵衛後に南方十次兵衛 片岡仁左衛門
濡髪長五郎 松本幸四郎
平岡丹平 中村壱太郎
三原伝造 中村隼人
母お幸 上村吉弥
女房お早 片岡孝太郎

*以前にも見た演目だが、今回は市川染五郎が、松本幸四郎に襲名しての歌舞伎。
貫禄のでた演技だったと私には思えた。この作品は天窓ーここでは引窓といっているーがもう一つの主人公。旧暦8月14日の夜だからほぼ満月。満月の明かりによって水鏡となった手水鉢にうつる長五郎。引窓を引いてそれを隠す女房お早。長五郎に諭された母お幸が長五楼をしばるのが引窓の綱。たくみに利用されるのが引窓。
逃げ延びた長五郎の行く末は・・・気になる終わり方である。

二、恋飛脚大和往来(こいびきゃくやまとおうらい)  
雪の降りしきる大和国新口村(にのくちむら)。やってきたのは大坂淡路町飛脚問屋の忠兵衛とその恋人で新町の傾城・梅川です。実は忠兵衛は梅川を身請けするために商売の金に手を付け、追われる身となっています。死を覚悟した忠兵衛は父親に別れを告げるため、梅川とともに生まれ故郷のこの地に落ち延びてきたのでした。そこへ父・孫右衛門が通りかかりますが、罪人の身ゆえ、名のり出られない忠兵衛。一方雪道を歩く孫右衛門は、雪に足を取られて転んでしまいます。これを見た梅川が孫右衛門の介抱をします。梅川が忠兵衛の連れだと気付く孫右衛門ですが、こちらも表だっては息子に声をかけられません。そこで梅川は…。男女の悲恋と親子の情愛を描いた上方和事の代表作をご覧いただきます。

亀屋忠兵衛/父孫右衛門 中村鴈治郎
万歳 中村虎之介
才造 片岡千之助
忠三郎女房 坂東竹三郎
傾城梅川 中村扇雀

*これは「封印切」の後日談。300両の金は見受けに200両、これまでのお礼にと50両を使い、残った金はここまでのカゴ代と宿賃に使ってしまい残りわずか。
忠兵衛の父親との再会と別れがこの場面だが、傾城・梅川が本当に哀れ。雪の上で裸足で父親の世話をする・・・
別れの場面に降る雪の量は舞台の奥が見えなくなるぐらい。(片付けも大変だなあとつい思ってしまう)。
この二人の行く末も気になる。イヤホンガイドによると、忠兵衛は牢獄で死んだとか、獄門磔になったとか説があるそうだが、いずれにしても罪を負って死んでしまったらしい。傾城・梅川はもとの郭に戻ったという説と亡くなったという説があるそうだ。とにかく悲劇には違いない。あー、忠兵衛にもっと計画性があったら、と思うのは現代に生きる私だからだろうか。

写真は開演前の客席。 定員の半分の人数。花道側の座席は舞台向かって右の5列は空席。左は一番左側の座席のみ使っていた。 花道から2メートルは開けるという方針なのだろう。
入り口のチケットの半券は自分でちぎって箱に入れる。
20分休憩中の食事は禁止。
最低限の水分補給のみ許可、という厳しいものだった。
7時に終わるので、そのあと夕食を、という考え方なのかも知れない。

舞台終了後の道頓堀の様子。
かつてのような大人数でもないし、緊急事態中のような閑散した様子でもない。
人数は少いが、雰囲気は華やいだものが感じられる。
キャッチの若者たちが目につく、8時までの客を呼び込みたいのだろう。
警察官の姿も目に入る。ただよっているのは不安定な緊張感か。
コロナが終焉しない世の中を反映しているように思えた。