これは「量地必携」という江戸時代・1850年に発行された本。山本正路作となっている。(国会図書館デジタルコレクションより引用)
ここに前回とほぼ同じような問題が乗っている。
現代文に直して考えてみよう。
「遠くにある甲と乙の間の距離を求める。
角度丁=30度50分=30.8度
角度丙=40度30分=40.5度
距離 丙丁=25間(けん)
=25✕1.82m
前回は山と船の位置関係と角度から距離と山の高さを求めたが、今回は遠く離れた2つの目印の距離を求めるもので、前回が立体的なものであれば今回は平面的な場面と言える。
この問題はネットで見つけてもので、「冴子先生の高校数学」というホームページにあった。「漫画で高校数学 三角関数は江戸時代は既に測量で掴んれていた 三角関数9」というタイトルで公開されている。
上の図のように、現代風に図も書き直して式を建てると、前回と同じような式が出てきた。
tangentの値さえわかれば計算できる。
「量地必携」にも三角関数の表が載せられている。
上の表の右側に「度」「分」という欄がある。 左に「正弦」「正切」、ページをかえて「余弦」「余切」とある。
右の表の下の方に「三一」「〇〇」の行がある。その上が「三〇」「五〇」となる。
この値が30度50分の値となる。
タンジェントは正切のこと。タンジェント30度50分は「五九六九一」とある。
これは0.59691 のこと。
そのままずっと左に見ていくと、余切の値がある。余切は八線という考え方からきているのは前回紹介したが、「江戸の数学」というホームページを参考にしてそこにある図を引用すると、
ここでもう一つの公式を思い出そう。
tan ( 90 – θ ) = 1 / tan θ
正切と余切の関係である。
表の30度50分を左に伸ばしてみていくと、余切59度10分の値になっている。
( 30度50分 + 59度10 分 = 90 度 )
余切59度10分の値は167530と書かれていて、これは1.67530である。
40度30分の場合も同じて、余切49度30分の値を見ると、117085と書かれていてこれは1.1785のことである。
甲乙の長さを求める式にこれらの値を代入すると、左のような計算式となる。
こうして八線表を使って甲と乙の距離を求めることができた。
こまかな計算はそろばんを使ったと思われる。
日本にそろばんが入ってきたのは15世紀前半頃といわれている。
江戸時代には寺子屋でそろばんが教えられるようになった。
伊能忠敬は八線表とそろばんを使って測量したことを計算して記録していったのだろうと思う。しかしこの八線表を手書きし、本にしていく努力は計り知れない苦労があったに違いない。