Sansho-dayu 山椒大夫5

The sister and brother were separated when they worked during the days, but they were able to live together in a small room. The two cried every night thinking about their father and mother.

*初めての汐汲みと芝刈りにとまどう安寿と厨子王。親切な木こりと汐汲みの仲間によってなんとか仕事をこなすようになっていく。

姉は潮を汲み、弟は柴を苅って、一日一日ひとひひとひと暮らして行った。姉は浜で弟を思い、弟は山で姉を思い、日の暮れを待って小屋に帰れば、二人は手を取り合って、筑紫にいる父が恋しい、佐渡にいる母が恋しいと、言っては泣き、泣いては言う。
 とかくするうちに十日立った。そして新参小屋を明けなくてはならぬときが来た。小屋を明ければ、やっこは奴、はしためは婢の組に入るのである。

*二人が離れ離れになるのがいやで、「死んでも別れない」と言う。無理やり別れ別れになるのを止めたのは二郎であった。
*二郎は二人に親切であった。

ある日の暮れに二人の子供は、いつものように父母のことを言っていた。それを二郎が通りかかって聞いた。二郎は邸を見廻って、強い奴が弱い奴をしえたげたり、いさかいをしたり、盗みをしたりするのを取り締まっているのである。
 二郎は小屋にはいって二人に言った。「父母は恋しゅうても佐渡は遠い。筑紫はそれよりまた遠い。子供の往かれる所ではない。父母に逢いたいなら、大きゅうなる日を待つがよい」こう言って出て行った。

Ten days passed and Anju and Zushio started to think of ways to escape.Zusho said,
“Let’s run away together!”
Anju didn’t say yes.
“You must go by yourself.
I will stay.”
“But sister, I can’t do it alone.”
“You are a smart boy.
You can do it.
First, go to Kyushu to find out father.
Then ask him to help you  find our mother.”

二人は父母のことを言うたびに、どうしようか、こうしようかと、逢いたさのあまりに、あらゆる手立てを話し合って、夢のような相談をもする。きょうは姉がこう言った。「大きくなってからでなくては、遠い旅が出来ないというのは、それは当り前のことよ。わたしたちはその出来ないことがしたいのだわ。だがわたしよく思ってみると、どうしても二人一しょにここを逃げ出しては駄目なの。わたしには構わないで、お前一人で逃げなくては。そしてさきへ筑紫の方へ往って、お父うさまにお目にかかって、どうしたらいいか伺うのだね。それから佐渡へお母さまのお迎えに往くがいいわ」
三郎が立聞きをしたのは、あいにくこの安寿のことばであった。


Sansho-dayu’s son was listening to their conversation.
People who tried to escape were always burnt on their forehead with red-hot iron bars.
The son took Anju and Zushio to his father’s big house.

三郎は弓矢を持って、つと小屋のうちにはいった。
「こら。おぬしたちは逃げる談合をしておるな。逃亡の企てをしたものには烙印やきいんをする。それがこの邸の掟じゃ。赤うなった鉄は熱いぞよ。」

*弟の三郎は立ち聞きしたことを山椒太夫に伝える。
安寿と厨子王は額に焼印を押されることになる。

Sansho-dayu heated iron bars in the fire.
Anju’s scream echoed inthe mountains.
And Zushio’s scream followed.
The brother and sister were thrown onto the frozen ground.
The two went back to their room full of fear and pain.

 

三郎は二人を炭火の真っ赤におこった炉の前まで引きずって出る。
・・・略・・・

三郎は火ばしを棄てて、初め二人をこの広間へ連れて来たときのように、また二人の手をつかまえる。そして一座を見渡したのち、広い母屋おもやを廻って、二人を三段のはしの所まで引き出し、こおった土の上に衝き落す。二人の子供はきずの痛みと心の恐れとに気を失いそうになるのを、ようよう堪え忍んで、どこをどう歩いたともなく、三の木戸の小家こやに帰る。臥所ふしどの上に倒れた二人は、しばらく死骸しがいのように動かずにいたが、

Zushio said quietly. “Anju, please take out your Buddhist statue.” Anju took out the statue from her kimono and they prayed to it.
They felt the pain slowly go awqy.

たちまち厨子王が「姉えさん、早くお地蔵様を」と叫んだ。安寿はすぐに起き直って、はだ守袋まもりぶくろを取り出した。わななく手にひもを解いて、袋から出した仏像を枕もとにえた。二人は右左にぬかずいた。そのとき歯をくいしばってもこらえられぬ額の痛みが、掻き消すように失せた。てのひらで額をでてみれば、創は痕もなくなった

Then , the two woke up. They marks on their foreheads were gone. Instead, they found a burn mark on the face of the statue.

はっと思って、二人は目をさました。
 二人の子供は起き直って夢の話をした。同じ夢を同じときに見たのである。安寿は守本尊を取り出して、夢で据えたと同じように、枕もとに据えた。二人はそれを伏し拝んで、かすかな燈火ともしびの明りにすかして、地蔵尊の額を見た。白毫びゃくごうの右左に、たがねで彫ったような十文字のきずがあざやかに見えた。

*焼印は二人が見た夢であった。同じ夢を見ていた・・・
ということは現実であったのか、別の世界の出来事であったのか、それとも本当に夢だったのか。
そのことを知っているのは額に十文字の痣をつけたお地蔵様だけである。