The Torikaebaya Tale とりかえばや物語11

When they were finally ready, Aki went back to the city as Haru. People were very happy to see him again.
Only Fuyu was not.
Her husband knew she had a baby with another man.
She didn’t know how to act in front of him.
But Aki said kindly,
“How are you, my wife?
You look as beautiful as ever.” Fuyu was surprised to hear such sweet words.
She felt her husband was a 
little different from before, but she was happy that her husband was back.

■身のことわりを思ひ知りつつも、なほ恨めしかりし御心ばへを背きぬべくやと、心見に吉野の峰の奥深くはたづね入りて侍りしかど、おぼつかなさも忍びがたく、幼き人のあはれなど、わりなき絆に、人わろく思ひ返され侍りにしも、いと罪深きも、君は心安げに承はりしこそ

田辺聖子さんの「とりかえばや物語」では、次のように説明されている。

久しぶりだね。君はやっぱり美しい。・・・
ぼくはきみにきらわれているのは知っていたが、きみを思いきることができるだろうかと吉野の山奥へ入ってみた。でもやっぱり、きみを忘れることができなかったよ。幼い子も気になるし、きまりわるいけど、世の中へもどってきてしまったよ。きみはかわりなく暮らしていると聞いたがね。
・・・・略・・・・
さあ、おたがいに、意地のはりっこはやめようじゃないの。きみはなんといっても、ぼくの妻なんだから、どうして忘れることができよう。

Fuyuは、Haruが以前と少し変わったように感じるが、
「やっぱり春風さまだわ。おたがい、いろんな目にあって変わったんだわ・・(田辺聖子「とりかえばや物語」)」と思う。

さて一方Haruは尚侍として宮中にもどってくる。

しかしその前に、自分が生んだ男の子との別れがあった。

Crying, Haru gave up her son.

原作では次のように書かれている。

■親子の御契り絶えぬものなれば、「行き会ひつつ見ぬようにもあらじ。さばかりなりしわが身の、この児愛しとても、いとかく人げなくて通わむをわづかに待ち取りて、過ぐすべきかは」と、なほ過ぎにし御心の名残、強くおぼし取りて。

田辺聖子さんの「とりかえばや物語」ではこのように書かれている。

「生きてさえいれば、また会えるわ。・・・親子の契りは絶えないのだもの。
それよりも、私はここで朽ちていっていいような身ではない。あれほど誇りにみち希望にあふれ、人々に賛美されていた私が、いくらこの子が可愛いからと言って、こんな情けない扱いをされ、男が通ってくるのをじっと待つだけ、というような暮らしに埋もれはてていいものか。
私には誇りがある。男のご機嫌に、よろこんだり心配したり、という人生はごめんだ」
さすがに半生を男として生きてきた春風は気丈だった。

春風は自分の子どもを乳母に託して、京に出る。
ここは「母としての人生を取るか、自分の人生を生きるか」現在も様々な意見が出るところだろう。 多くは「子どものため」「母として」いきる人生を選び、称賛される小説や映画や舞台が多いと思う。 しかしHaruは自分の人生をえらぶ。今から1000年前の文学にその生き方が書かれている。
これが息長く現在まで伝えられている物語の秘密、パワーなのかもしれない。

Then she went to the emperor’s palace and worked as Aki.
People didn’t notice the change.

HaruもAkiと入れ替わったことを気づかれず尚侍の仕事をすることが出来た。
Enjoy Simple English では書かれていないが、Haruと女東宮のお付きの女官と話す場面がある。そのときのHaruの応対ぶりに

■そのほどの御事、とやかくやと聞え合わするにも、過ぎにし方よりも道々しう、御けはいなどのただほのかに言続けても宣はざりしを、聞くわくほどに物うち宣へるも愛敬づき、聞かまほしきさまにいとをかし。
その間の事を、あれこれと確かめても、かつてより道理をわきまえ、以前はご様子もぼんやりと言葉を続けて物をおっしゃらなかったのに、今は聞いて納得できる程度には物をおっしゃるのも魅力があり、いよいよお話が聞きたくなるふうですばらしい。(桑原博史「とりかへばや物語」より)

この様子がEnjoy Simple Englishでは、次のように表されていると思う。

They only thought Aki was now a littel brighter, and a little quicker with her answers.

Enjoy Simple English では省かれているが、女東宮にHaruとAkiは二人でこの間の事情を説明する。女東宮はショックを受け、これからの自分の生き方を考えるようになるが、ここではこれ以上ふれない。

女東宮は人知れずに出産となり、生まれた子どもはAkiとHaruの父親の左大臣家に。女東宮は父院の御所で養生することになる。
尚侍のHaruはどこへも行かず、とどまることになる。
この時をチャンスとばかりに帝がHaruのもとに忍び込む。
もともとAkiが尚侍のときから好意をよせていた帝は、姿形がそっくりなHaruを以前のAkiと思い、再び入内させるようにと左大臣に働きかける。

Then one day , the new emperor saw Aki, who used to be Haru, and fell in love with her.
He proposed to her again.
How could the father refuse?
Aki was really a woman this time.
He happily replied yes.
His daughter married the emperor and had many children.

英文のように帝の女御としてHaruは帝のもとに行き、結婚することになる。
このあとAki, Natsu,そしてHaruの産んだ子どもはどうなるのだろうか。
次回ですべてが回収されていく。

 

 

 

 

 

The Torikaebaya Tale とりかえばや物語10

The sister and brother looked at each other.
Aki said to his sister,
“From tonight, we will change places.
You will become me, and I will become you.”
Haru was very surprised to hear this.
They talked and decided it was the best idea.

 

原作では、Akiはいったん家に帰り、父親にHaruを発見したことと、今は女の姿になっていることを伝える。父親は夢のお告げ(男と女がいれかわったのは天狗の仕業であり、それももう解決するという夢)と同じだと喜び、こう答える。

よし、この人を尚侍にと聞こえて、そこにこそは、代りし給はめ
 よいよい、その女を尚侍にしようと申し上げてくれ。あなたが右大将(Haruのこと)の代わりをなさい。

日を決め、二人はこっそりと宇治の邸を抜け出した。すぐに京にもどるのではなく、しばらくは吉野の山で準備する計画である。

So they had to prepare for the cnage.
They taught each other about their lives.
During the day, Haru told Aki about the people at the emperor’s palace and taught him how to play the flute.
During the night, Aki gave lessons to Haru on how to play the Japanese harp and how to write like him.

このあたりを川端康成さんはこのように訳している。

「私の代わりに大将として、世に交らひになろうと思はれるならば、容貌や姿は、あまり違いはございますまい。大体の表向きのことが違って、よく分からぬとお思いになるならば、利口ぶるようですが、私の承り、また行っていました公事や、某々の人の申しましたこと、またお答えになるべきことなど申し上げますわ。」
などと、すこしも利口ぶらずによく教えて知らせる。琴笛の音、手蹟などはまもなく上手になる。大将と同じように吹きならし、弾きならす様は、また手蹟なども、まして書き似せようと学ばれると、まったく違うところもない。声の様子は、もとは尚侍の方で、男が女の真似をし、大将の方では、女が強い声に使いならしたのだから、よく似ているので、その気配は何処が違はう。驚くべきあはれな兄妹の縁だとおもわれる。」

Haru made a special request for Aki.
She said, “Please take care of Fuyu for me.
Please love her as your wife.”
Aki agreed.

 

入れ替わる準備をする二人は、これまでのお互いの生活をすべて語り合い、教えあった。

げに、すべてつゆ飽なゆ事なくいみじうすぐれてめでたきを、権中納言の事思ふに、心より外の事にぞ侍りけるかし。今はうけばり、わが物といみじう思ひとどめて扱ひ給ひしを、昔ながら物宣ひ寄らむこと

実際、四の君(Fuyuのこと)にはまったく欠点なくたいそうすぐれて立派な女ですが、権中納言(Natsuのこと)は気負って、わが物とたいそう熱愛しお世話していますが、あなたが元通りにお声をかけてくださいませんか

この辺の状況を田辺聖子さんの「とりかえばや物語」より引用する。

「『じつはねえ、春風、ぼくも女東宮のことが心配なんだ。ぼくは尚侍としておそば近くお仕えしているうち、東宮を愛するようになってしまった。きみは男社会で生きてきた人間だ。おどろかないで、冷静にこれからの相談に乗ってくれ。春風、仲間として』
『いいわ。・・・いいから話しなさい。苦労はふたりで分けたら半分になるわ』
・・・略・・・

『右大臣の姫(Huyuのこと)はどうする? あたしは冬日を、あなたが夫として愛してあげてほしいと思うわ。右大臣はあたしの愛が薄いといつもおうらみだったけど、夏雲とのことは、冬日がわるいのじゃなくて、夏雲のよこしまな浮気から出発したこと。夏雲はいま、気負って冬日の世話をしてわがものにしているけど、やっぱりあなたがほんとの夫として愛してあげるべきだと思うわ』
『そうしよう』
秋月は日ごとに、男の気持ちになっていく。」

平安時代は男は笛、女は琴が演奏できることが求められた。二人はどちらの楽器もマスターし、書き文字もそっくり書けるようになる。声はもともと男が女の声を、女が男の声を出すようにしていたのだから元に戻れば、誰もその違いがわからない。
HaruはAkiにFuyuの世話を頼み、AkiはHaruに女東宮の世話をたのむ。こうしてHaruとAkiの「とりかえばや大作戦」は秘密裏に進んでいく。

 

 

The Torikaebaya Tale とりかえばや物語9

Meanwhile, Haru was very lonely.
She had given birth to a son and had finally decided to live as a woman.
But her baby’s father, Natus , was not with her.
He was with Fuyu and his other baby.
How funny her destiny was. She had only lived her life as a woman for a short time and she was already tired of it!
The only thing that kept Haru alive was her.son.

Haruは光り輝くばかりの男の子を出産した。NatsuはしばらくはHaruにつきそっていたか、四の君(Fuyuのこと)が出産間近ときくとすぐさま京都に戻ってしまう。
いつ出産があるかわからないと、NatsuはしばらくはHaruのいる宇治にはもどらなかった。

かくのみこそはあるべきなめれ。わが心ひとつにこそ、よろづの事につけて嘆き絶えせぎりしか。おほかたの世につけては、傍なくなりにし身を、あいなくもて静めて類なくだにあらず。かくのみ待遠に思ひ過ぐさむ事もこそ、あほあるべきにもあらね。
所詮男心はこのようなものだ。わたし一人だけが、万事につけ嘆きの絶えぬ思いをするのだった。大体の世間で、傍に立つ人もないくらいに栄達したわが身を、不本意にも身を隠し、類なくよくなったというのでもない。こんなふうにばかり男を待ち遠に思って日を過ごすというのも、やはり本来のあるべき生活とも思えない。

田辺聖子さんの「とりかへばや物語」ではこんなふうに説明している。

「女は、いつもこんなふうに生きていかねばならないのだろうか。
なげくことが多かったとは言いながら、男姿のときの私は、肩を並べるものもないくらいに世間にもてはやさて、栄達していた。
それを惜しげもなく捨てたのではないか。
それなのに、女に戻ればそのへんの、つまらぬ普通の女としか、あつかわれない。
あの男は私だけを愛しているんじゃない。
心を二つに分け、私への愛は二分の一だ。
女は男を待つだけの存在なのか。
こんなこと、どこかまちがっている。
ただ一人の男に、ただ一人の女、と愛されるべきだ。
Fuyu(四の君)の父の右大臣も、世間への思惑から勘当していられるけれど、もともとかわいがっていらした娘だから、いつかはまたもとのように引き取って、丁寧にお世話なされるだろう、 Natsuもいつかは婿として待遇されよう。・・・略・・・
だからといってもとの男姿でいきるわけにはいかず、やはり吉野山へはいって尼になることにしよう」

ここに登場する吉野山というのは、HaruがNatsuとHuyuの子どもを見て、Natsuにそっくりなのにひどく失望したとき、吉野山にいる隠者に相談に行くという場面が以前にあったことに関係している。

この吉野山にいる隠者という人物は、先帝の第三皇子で、唐の国に遊学し様々な学問を身に着けて日本に帰ってきた人である。
中国で結婚し、二人の娘とともに日本に帰ってきた。しかし政争に巻き込まれ謀反の疑いもかけられ、吉野の山に隠遁したのである。
その吉野山の隠者とHaruは懇意になり、いろんな助言をもらう。
また、Haruが姿を消したとき、AkiがHaruを探し求めた時に頼りにした場所であり、人物だった。

男姿に戻り、吉野山の隠者からHaruのいる場所を教えてもらったAkiは、宇治の邸を訪ねる。

Then one night, she had a guest.
It was her brother Aki dressed as a man.
“Aki, my brother, what are you doing here?”
“I’m here to take you back home.”

物語のこの付近の様子を川端康成さんの訳からみてみよう。

「・・・この吉野の山に出家して身を隠そうと思っております」と(Haruは)泣いて云う。
「そんなことをおっしゃいますなよ。父母の君のご在世の間は、私(Akiのこと)もあなたも(Haruのこと)世を思ひあきらめるべきではありませぬ。あなたのために、父上は非常に心配のあまり呆然としておられたのを、見すてて置いて出てまいったのです。本当に何のためにこんな様に忍びかくれていらっしゃることがありましょう。といって男姿におなりになっては、人の噂も具合が悪いでしょう。私は女房等に、留守だと人にはいわないで置けと言いおいて出てきましたから、誰にも見られ知られる事もない身なので、私が居る居ないの区別を知る人もいないでしょう。私の身代わりとしてそのままいらっしゃいませんか。・・・略・・・」

ここからHaruとAkiの「とりかえばや大作戦」がはじまる。