左の本はブルーバックスの「直感を裏切る数学」。その目次を紹介すると、
第1章 直感を裏切るデータ(比率の魔術/平均的日本人 ほか)/
第2章 直感を裏切る確率(恐怖の誕生日/ダーツの跡 ほか)/
第3章 直感を裏切る図形(ふたと50ペンス/ルパート公の問題 ほか)/
第4章 直感を裏切る論理(空間充填曲線/パロンドのパラドックス ほか)
人気のある本で、予約待ちをしていた本。
面白い内容なので、そのなかからいくつか紹介してみよう。
この本で知ったことの多くは、人にしゃべってみたくなる。そういう本だ。
今回はそのなかから、「自分自身よりも大きなものを通す」というトピック。
左のような立方体があるとする。
この立方体に穴を開けて、違う大きさの立方体を通すことを考える。
半分の長さの立方体なら、簡単に通り抜けることは想像できる。
できるだけ大きい立方体、できたら図の立方体よりも大きな立方体で、そんなことが可能かどうか?
すぐに思い浮かぶのは、左の図のように穴を開けたらどうだろうということ。
かなり大きな立方体が通り抜けそう。
これは、各辺の中点を通るように切り口を作ったもの。
切り口は正六角形になる。
ここに内接する正方形を一つの面とする立方体を考えるわけである。
立方体の一辺の長さを1とすると、図の正六角形の一辺の長さは、三平方の定理より
√2/2
ということはすぐにわかると思う。
では、図のように正六角形の内部で接する正方形の一辺の長さはどうなるだろう。
本には結論しかのっていないので、求め方を書いておく。
この方法ではダメなことがわかった。ではどのような立方体が考えられるだろうか。
本に沿って説明をしてみよう。
この問に答えたのは、オランダの数学者、ピーター・ニューランド(1764〜1794)という人。
まず各辺を1:3にわける4つの点、F、A、D、Gを取ると、四角形FADBGは正方形になる。
FGの長さを求めると、三平方の定理より、立方体の辺の長さを1とすると、短辺のながさは3/4となるので、
斜辺FG =3/4 ✕ √2=3√2/4=1.0606601・・・・となる。
次は、FAの長さを求めてみよう。
左の図のように、
EF=√2/4
だから、
三平方の定理をつかって、
FA✕FA=EF✕EF+EF✕EF
EF = √2/4
EF = 1
だから
これは、EFと同じ値である。
FA = FG
が、確かめられた。
つまり、一辺が
1.0606601・・・・という、1より大きな立方体が、一辺が1の立方体を通り抜けるということらしい。
実際に作って確かめてみよう。
これが一辺が1の立方体と、
一辺が1.0606601の立方体
右の小さい方の立方体が、一辺1の立方体である。
この立方体のなかを左の立方体が通り抜けるところを実際に確かめてみる。
一辺が1の立方体の各辺を1:3にわけて点をとり、写真のように線を引く。試しに半分だけ切り取ってみる。
ここに一辺が1.0606601の立方体を差し込んでみる。
なるほど、計算通りにはまりこんでいくことがわかった。
反対側も切り抜くとこのようになる。
F、G、A、Dの部分は、点で接触しているだけなので接着剤で補強する。
かなり不安定な立体になった。理論と実際の差がここにでてくる。
少々強引だが、大きい方の立方体をこの開いている部分にもぐりこましてみよう。
方向を変えて写真を撮ると、
小さな立方体に開いた空間に、少し大きい立方体が入り込んでいることがわかると思う。 実際の作業は、セロテープでつながっている点を補強して写真を撮るなどの努力?がいった。
0.0606601の差しかないわけだから、紙の厚さ分ぐらいの誤差は大きく影響する。精密な模型ではなかったが、確かに自分自身よりも大きなものが通り抜けることができる、ということが確かめられた。
直感では自分よりも大きなものが通り抜けるなんて想像もできないが、それが可能なんだなあと感心する。
本では次のようにまとめられているので紹介しておく。
「さて、この問題を解く際、重要な事は何でしょうか。それは
『立方体の断面を調べる』という視点で、問題を捉え直すことです。
『立方体を包丁でばっさり切った時、切り口が正方形になるのはどのような場合か』と考えれば、解くことができるからです。図形の問題はセンスが必要などと言われますが、論理的思考力を磨くほうがはるかに効果的なのです。」
なるほどね。でもそんなことを思いつくセンスがないとねぇ、というのが私の実感だった。