枕草子を英語で②

「枕草子」の全体像をつかんでおこうと考えていたら、図書館の本にコミックがあった。上の左の本が、学校図書の「コミックストーリー/わたしたちの古典「枕草子」」。
右の本が学研の「まんがで読む枕草子」という本。
どちらも中宮定子に仕えるところを中心に展開されている。まんがなのでとても読みやすい。おかげで「枕草子」の主な段の内容を知ることができた。

Enjoy Simple English の2回目を紹介することにしよう。

Things that make people worry

講談社の少年少女古典文学館4の大庭みな子著による「枕草子」では、第70段 「気がかりなもの」
として現代語訳されている。
(日栄社の「イラスト古典全訳 枕草子」橋本 武著)では、第66段となっている)

原文は

おぼつかなきもの。 

十二年の山ごもりの法師の女親(めおや)。しらぬ所に、闇なるに行きたるに、あらはにもぞあるとて、火もともさで、さすがに並みゐたる。 

今いできたるものの、心もしらぬに、やむごとなき物持たせて人のもとにやりたるに、遅くかへる。ものもまだ言はぬちごの、そりくつがへり、人にもいだかれずなきたる。 

英語訳は

 Things that make people worry: A mother worries about her son who has been a monk on the holy mountain of Hieizan for 12 years.
 When you go somewhere you don’t know and night falls. Servants aren’t allowed to use any lights because they shouldn’t be seen.
————(略)

 比叡山に12年間修行するお坊さんの母親ー大庭みな子訳によると「当時出家して比叡山延暦寺で修行する法師は、12年間ここにこもって修行しなければならない。その間は、山を下ることが許されなかったのである」と注に書かれていた。
なるほど、母親としてはそれは「気にかかる」だろうと思う。
 次のWhenから始まる文は、先の話とは全く違う話。清少納言の文が短いのはこういうことなのだ。
大庭みな子訳によると、「知らない家を闇夜に訪ね、『明るすぎる』と言われて、火も灯さず並んで座っている時の心もとなさ」とある。ちょっと私にはその状況が理解できなかった。
橋本武訳(イラスト古典全訳枕草子)を見ると、
「知らない所に闇の夜に行ったのに、『目立っては具合が悪いから・・・」と言って、明かりを灯さないで、そのくせ、じっとして並んで座っているの」とある。
英訳の方はこちらのほうが近いようだ。

 古典といえども日本語。少しは分かるだろう、と思っていたがなかなかそうはいかない。私にとっては全く違う言葉のように感じてしまう。古典の現代語訳も難しい。

 

Things that are opposite

たとしへなきもの。
夏と冬と。夜と昼と。雨降る日と照る日と。
人の笑ふと腹立つと。老いたると若きと。白きと黒きと。
思ふ人とにくむ人と。
同じ人ながらも、心ざしあるをりと変はりたるをりは、
まことにこと人とぞおぼゆる。
火と水と。肥えたる人痩せたる人。髪長き人と短き人と。

 大庭みな子訳の「枕草子」では71段。橋本武役では68段となっている。
英訳と大庭みな子訳にはないが、橋本武訳ではこのあとに夜烏の話がのせられている。写本によって段の編成が違うのがわかる。

真ん中にある、「同じ人ながらも心ざしあるをりとかはりたるをりは、誠に異人(ことひと)とぞおぼゆる」の英訳は、

Even when they are the same person, it changes how they treat you. When they have different feelings about you, you might think, “They can’t be the same person.”

なるほど、よくわかる。

 

Things that are rare

ありがたきもの

舅(しゅうと)に褒めらるる婿。また、姑に思はるる婦の君。毛のよく抜くる銀(しろかね)の毛抜き。主謗らぬ(そしらぬ)従者。 つゆの癖なき。かたち、心、有様すぐれ、世に経るほど、いささかの疵(きず)なき。同じ所に住む人の、かたみに恥ぢかはし、いささかの隙(ひま)なく用意したりと思ふが、つひに見えぬこそ、難けれ。 物語、集など書き写すに、本に墨つけぬ。よき草子などは、いみじう心して書けども、必ずこそきたなげになるめれ。 男、女をば言はじ、女どちも、契り(ちぎり)深くてかたらふ人の、末まで仲よきこと、難し。

 大庭みな子訳の「枕草子」では75段、橋本武訳の「枕草子」では71段になっている。前回紹介した角川ソフィア文庫の「枕草子」は第72段となっている。

 中程にある「物語、集など書き写すに、本に墨つけぬ。よき草子などは、いみじう心して書けども、必ずこそきたなげになるめれ。」の英訳は、

To copy a story or poem without dropping a single drop of ink on the original book.  You try  really carefully not to do that when the original book is important.  But most of the time, you do.

 本を読みたいときは写本をしていたことがわかるところ。
現在のような印刷もコピー機もない時代、写本しかなかった。写本する時の苦労がよくわかる。写本のときに写し間違えたり、自分流に書き換えたり、順を変えることもあったのだろう。意図的でなかったとしても、それが次々に写されていくうちに原文と変わった写本がいくつも出てくることは予想される。

そんなふうにして、「枕草子」も4種類の写本本が現在に伝わったのだろうと思う。
しかし何人もの人たちの手間ひまかけた努力が、現代に「枕草子」を伝えたのだと思うと、すごいことだと思う。だから「手書き文字」が大切にされなければならないのだろう。

 

 

枕草子を英語で

The Pillow Book

久々英語のラジオ講座のテキストを買った。

左の「Enjoy Simple English」だ。
「辞書がなくても読めた、聞けたを毎日体感!」というキャッチフレーズで売り出している。私も何年か聞いているが、毎日5分の英文をシャワーのように浴びるように聞くもので、内容が結構面白い。

しばらく忙しくて聞く暇がなかったが、今年はJapanese Classicsとして、「枕草子」が取り上げられているので、買うことにした。

枕草子を英語でいうと、The Pillow  Book というとは、そのままじゃないかと思いながら読んでみた。

For spring, 

春はあけぼの。やうよう白くなりゆく、山際すこし明かりて、紫立ちたる雲の細くたなびきたる。

ここは英語ではどのように表現されているのだろう。

 For spring, it is the dawn that is most beautiful.
The skies on top of mountains become lighter and lighter with the rising of the sun.
The long thin clouds that turn light purple are a sight to be enjoyed, too.

清少納言の書く「枕草子」は、短い文章で書かれているのが特徴。それを英訳するときには、言外に含まれている内容を言葉にして表現する必要があることがわかる。

「枕草子」の「春はあけぼの・・・」の段は、このあとに夏、秋、冬と続く。
350字ぐらい、原稿用紙1枚に満たない文章である。
Enjoy Simple English ではB5の用紙で1枚半ぐらいかけて英訳されている。

しかし本文を知らない日本人が読むと、その内容がよく分かるのは確かだ。
そこにこの Enjoy Simple English のテキストの面白さがあると思う。

Things that make your heart dance

「心ときめきするもの。雀の子飼ひ。乳児(ちご)遊ばするところの前渡る。
よき薫き物(たきもの)たきて、一人臥したる。唐鏡(からかがみ)のすこし暗きみたる。よき男の、車停めて、案内し問わせたる。 頭(かしら)洗ひ、化粧じて、香ばしう染(し)みたる衣(きぬ)など着たる。ことに見る人なき所にても、心のうちは、なほいとをかし。 待つ人などのある夜、雨の音、風の吹き揺るがすも、ふと驚かる。」 第26段「心ときめきするも」より

英訳を見てみよう。

Things that make your heart dance: Keeping baby birds as pets.
Passing by people playing with their babies.
Lying down alone in a room with incense burning.
When you look into a foggy mirror from a foreign country.
When you see a man of high rank stop his wagon and get his servant to ask someone something.
When you wash your hair, do your make up, and wear a nice-smelling kimono. Even if no one sees you all dressed up, your heart dances, and it’s a nice feeling.
The sounds of rain or the rattle of the house when the wind blows while you wait for your lover to come.
Those sounds make your heart skip a beat.

ここは清少納言の美意識が書かれているところで、今の時代にも通じるセンスを感じる文章。原文の短いセンテンスでは、現代の人には説明不足で、一読ではわかりにくい感じがする(私はそうだ)が、英訳のほうがなんとなく雰囲気がわかるような気がする。「ときめく」が
make your heart dance
と訳すとは、知らなかった。 

「枕草子」は、高校の時の古文で、いくつかの段を勉強したことがあるが、全体についてはよく知らなかった。
図書館や家にある本を調べてみると、大きくわけて4系統の写本があるそうだ。
左の本(NHK 出版 山口仲美著 「100分で名著ブックス 枕草子 清少納言 どうして、春はあけぼの?)によると、
①三巻にまとめられた三巻本系統
②歌人・能因のところに伝わった能因本(伝統因所持本ともいう)
③前田家に伝わった前田家本
④堺に住む僧に伝わった堺本系統
の4種類だそうだ。
その写本は、内容を見ると配列の順序が大きく違っていると言う。したがって「何段」といっても、写本によってその内容は違ってくる。現在の多くは三巻系統の本が多く使われているそうだ。

「心ときめき・・・」の段は、ここでは第26段と書いたが、それは左の本、
(角川ソフィア文庫 「枕草子」)によっている。

しかし講談社の 大庭みな子著 「枕草子」では第29段に分類されている。

日栄社 橋本 武著 「イラスト古典全訳 枕草子」では、第27段とされている。使っている写本によって段は違っているのがわかる。

したがって枕草子の場合は第何段といっても写本によってその内容は変わってくるのでその段の最初のいくつかの言葉をそえて説明するようだ。
第1段「はるはあけぼの・・・」
第26段「心ときめき・・」のように書かれていることが多いのは、そういう理由があらからということがわかった。

今回は Enjoy Simple English の1日分をとりあげた。残りの分は次回に書く予定。