中村鴈治郎襲名披露大歌舞伎

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松竹座で行なわれている「中村翫雀改め四代目中村鴈治郎襲名披露の寿初春大歌舞伎」に行ってきた。

中村鴈治郎さんという名前は、先代(三代目)の鴈治郎さん・今の坂田藤十郎さんから知っているが、大阪の歌舞伎にとって重要な名跡ということは知らなかった。
三代目が坂田藤十郎さんの名跡を次いでから約8年。その間中村鴈治郎という名はなかったので大阪の歌舞伎界にとっては待ちに待った襲名ということだろうと思う。

 

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今回の歌舞伎は、襲名披露ということなので是非とも行きたかった。
チケットが午前・午後と取ることができたので、襲名披露公演の全体を見ることができて楽しかった。
演目は、
(昼の部)
1.寿曽我対面(ことぶきそがたいめん)
2.廓文章(くるわぶんしょう)吉田屋
3.河内山(こうちやま)

(夜の部)
1.将軍江戸を去る
2.口上
3.封印切(ふういんぎり)
4.棒しばり

口上は予想通りに華やかで楽しかった。
舞台上手(客席から見て右)から、中村梅玉(ばいぎょく)、坂東彌十郎(やじゅうろう)、坂東竹三郎、片岡愛之助、中村橋之助、片岡仁左衛門(にざえもん)、中村鴈治郎、坂田藤十郎、中村扇雀、中村壱太郎(かずたろう)、中村虎之介、中村亀鶴(きかく)、片岡秀太郎(ひでたろう)の面々(敬称略)。
「藤十郎兄さんからのご依頼で」と仁左衛門さんの挨拶から始まり、右の橋之助さんから梅玉さんへ、そして秀太郎さんに移り順次右へ、最後に四代目鴈治郎さんの挨拶となった。少し緊張感が感じられ、意気込みが感じられる口上だった。

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鴈治郎さんが出演したのは、「吉田屋」(これは坂田藤十郎さん、中村鴈治郎さんの共演というこれまでなかったもの)と「封印切」。
「 封印切」は坂田藤十郎さんのものを何回か見ている。四代目鴈治郎さんの姿形は藤十郎さんによく似ているが、やはり若い。若い忠兵衛も新鮮だった。よく研究されていることが伝わってくる。
襲名するということは、こんなふうに芸を継ぎ、発展させていくことなんだなあと思う。

左の写真は幕間で買ったお菓子の生八ツ橋「夕霧」。「廓文章吉田屋」の夕霧にかけているようだ。味見をさせてもらっておいしかったので買った。

「封印切」の重いお話のあとに、狂言の題材をもとにした「棒しばり」で心が軽くなる。
後ろ手にくくられた中村壱太郎さんの太郎冠者、両腕を棒でくくられた片岡愛之助さんの次郎冠者。どちらも両腕が不自由であるのにその不自由さを感じさせないのがお二人の芸。扇を広げたり、扇を持ち替えたり、舞台を素早く移動したりと、熱演におもわず拍手。相当な練習と修行の成果なのだろうが、百発百中の芸を求められるが故の緊張感がたまらなく楽しめた。
片岡仁左衛門さんの「河内山」での名セリフ「ばかめ〜!!」と、花道での表情の変化も、これが「芸」なのだと感心する。

松竹座の玄関上に「櫓(やぐら)」があった。

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 これまで歌舞伎をやっている松竹座でこのような櫓を見たことがなかったので、入り口の係の人に聞いてみた。
「いつもは見ない櫓がありますけれど・・・」
「お正月公演と襲名披露ということで櫓があります」
「京都の南座にはいつもありますね」
「そうです。あちらは常設しています」 

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 南座体験のブログにも紹介したが、櫓は江戸時代に幕府公認の劇場のみ揚げることができるというもの。逆に言えば、櫓を揚げている劇場は「幕府公認の劇場です」、と言っていることと同じなわけ。

左右には白い御幣が立っている。
御幣とは「紙や布を細長く切って、細長い木にはさみ、神前に供えたり神主がお祓いするときに用いる祭具(語源由来辞典)」のこと。
この御幣は梵天(ぼんてん)と言い、神さまが降臨するための依代(よりしろ)である。南座の梵天は、八百万の神(やおよろずのかみ)から800枚の紙からできている。
しかし松竹座の梵天は800枚以上の紙がありそうだった。

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これは襲名披露公演の祝い幕の原画。松竹座ロビーに展示されていた。
作者は森田りえ子さんという日本画家。この人は新進の日本画家として有名な人だそうで、金閣寺の杉板絵も描かれているという実力者。今回の番付の表紙絵(紅白梅)もこの人の作品。どちらも華やかでしかも気品を感じさせる絵だと思う。
実際の祝い幕は下の写真のとおり。(この写真は中村扇雀さんのブログより)

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扇雀さんのブログにこの祝幕の話が書かれていた。

http://www.senjaku.com/blog/2015/01/post-363.html

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お正月の襲名披露公演というものに、初めて行ったが、華やかなムードが漂っている。

名前を継ぐことによって、芸が引き継がれていく。単に過去の財産を守っていくだけでなく、さらに新しい芸を追求していくという清々しさがそこにはあった。若手の役者さんから人間国宝の坂田藤十郎さんの芝居を同じ舞台で見せてもらう方もうれしいが、演じている役者さんも励みになるだろうなと思う。
継承と発展、どこの組織・団体・社会でもある普遍的な課題。
目に見える笑顔や華やかさの裏側に、汗と涙と血の滲むような修練があるのだなあ、と身の引き締まる舞台だった。

 

 

 

十月花形歌舞伎 1

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松竹座での「十月花形歌舞伎」を見に行く。
今回は日を変えてだが、昼の部、夜の部を見ることができた。
どちらも大阪が舞台で、片岡愛之助さんが主演の、若手が多数出演したエネルギーあふれる舞台だった。

 

IMG_4869昼の部のメインは「新・油地獄 大坂純情伝(おおざかじゅんじょうでん)」
これは平成若衆歌舞伎(平成9年にスタートした「松竹・上方歌舞伎塾」の卒業生の一座)による平成15(2003)年にシアター・ドラマシティで初演された新作歌舞伎。片岡愛之助さんが油屋の息子河内屋与兵衛を演じている。
「油地獄」からわかるように、近松門左衛門作の「女殺油地獄」がモチーフになっている。そこに「ウエストサイド物語」と「ロメオとジュリエット」がミックスされている。
番付に片岡秀太郎さんが「・・・それというのも『ウエストサイドストーリー』、山本周五郎先生の『深川安楽亭』の世界と『油地獄』をどうしてもドッキングさせたかったのです。それと河内屋与兵衛を単なる悪人に、お吉を単なる被害者にしたくない人間の業のようなものを『哀しくも美しく』表現したかったのです」と書いている。

作・演出の岡本さとるさんは、「私は青春という不安定な時期をうまく乗り切れなかった若者の、不運と悲劇に尽きると思っています」と述べている。
ウエストサイド物語のジェット団とシャーク団のように腕を振り回しながら登場する天神組と雁金組、商家の息子と貧しいヤサグレの連中、中村亀鶴さん演ずる遊女小菊の兄である天神組の与五郎と油屋の息子与兵衛の対比も劇の深みを見せ、時代と社会は違っても普遍的に若者が持っている社会への不満と自分でも制御できないエネルギー、若者ゆえの恋人への使命感と実際には何もできない無力感、現代社会にも共通する姿がこの新作歌舞伎にあふれている。

IMG_4867舞台から飛び出して客席を駆けまわる演出は現代の若者の「歌舞伎は難しい」というイメージを突きくずす。
人形浄瑠璃で与兵衛とお吉の油まみれの殺しの場面を見た時は、そのリアルさに驚いたが、今回の歌舞伎でも迫力ある舞台に目を見張った。最近見た中村壱太郎さんと片岡愛之助さんの共演は春の「GOEMON 石川五右衛門」だが、よく息があっている。中村壱太郎さんのお吉は艶っぽさが出ていて見に来た甲斐があった。
楽しかったのは中村翫雀(なかむらかんじゃく)さんの幻術士果心。舞台の転換に「曽根崎心中」を演じている見世物小屋がつかわれている。その呼び込みのように現れては言う、「見ていかんか、この世の因果、この世の不思議」。夏の夜の回り灯篭のように繰り返し、この純情伝の世界に引き込んでいく。
製作者の意図はシェイクスピアのマクベスに登場する三人の魔女のイメージだとか。
私はこの歌舞伎を見たあと、DVDで「ウェストサイド物語」を見、図書館で山本周五郎の「深川安楽亭」とシェイクスピアの「マクベス」を借りてきて読んだ。世界と時代は違っても青春のきらめきと心の闇、人を動かす恋と愛は芸術として私達の心情をゆさぶる。名作と言われる文学やミュージカルがこの新作歌舞伎を創りだし、若手の歌舞伎役者が演じた舞台だと思った。