5月花形歌舞伎

松竹座で行われている「5月花形歌舞伎」を見に行った。

中村勘九郎・七之助兄弟、それに市川猿之助、という若手が出ているので楽しみだった。

午前の部も面白そうだったが、夜の部を選んだ。それは「怪談乳房榎(かいだんちぶさのえのき)」があったからだ。この演目は以前に見た記憶がある。いったいいつだったのだろうと、番付の演目一覧を見てみると、なんと1991年(平成3年)7月、中座だったようだ。
中座といえば歴史のある劇場で、1661年開業という300年以上の歴史がある。1999年に閉館している。

私が見たのは先代の中村勘九郎が演じていたもので、もう26年前のことだったのだ。私が歌舞伎を見始めたころで、本当の水を使った場面や、早替わりを知ったのもこの演目だと思う。(上の中座の写真は、番付より)

今回の番付を見ると、「怪談乳房榎」には、長い説明がついている。

「三世實川延若より直伝されたる 十八世中村勘三郎から習い覚えし
三遊亭円朝原作
怪談乳房榎
中村勘九郎三役早替りにて
相勤め申し候」

番付のインタビュー記事からその部分を引用すると、

・・・「怪談乳房榎」は父(十八世)勘三郎から受け継いだ作品だ。
「それも父に教えてくださった(三世實川)延若のおじさまあってこそのもの。父は上演のたびに必ずおじさまの名を記していましたので、それもしっかり受け継いでいきます。(平性3年に)中座で上演した時の舞台は子供ながらに強烈に覚えています。それに負けないくらい血が騒ぐ舞台にしたいと思います。」
大阪ではその中座以来の上演となり、自身が初めて手がけたのは平成23年。平成26年には「平成中村座ニューヨーク公演」でも行い、国内ではこれが4回目となる。絵師の重信、その下男である正助、悪役のうわばみ三次の三役早替わりが眼目となっている。…………

左の写真は番付にあった、平成3年の時の舞台。
演じているのは先代の中村勘九郎。今の勘九郎のお父さん、中村勘三郎だ。
写真で見ると、やっぱり親子だなあ、よく似ている。

ニューヨーク公演の様子は、テレビでそのメイキングを含めて放映していたのを見たことがある。
それでなおさら、この演目を見てみたいと思ったわけだ。

その期待通り、面白かった。
居眠りをしている暇はない。

原作はあの三遊亭円朝。文七元結、牡丹燈籠も円朝の作品。
原作のあらすじは、ウィキペディアを引用すると、「絵師として活躍していた菱川重信の妻・お関に惚れてしまった磯貝浪江という浪人は、重信の弟子となってお関に近づき、関係を持たないと子供を殺すと脅迫し、お関と関係を持ってしまう。それだけでは飽き足らない浪江はお関を独占し、かつ重信が築いた莫大な財産を手に入れるため師を惨殺する。夫の死のショックで乳の出なくなったお関の元に、死んだ重信の亡霊が現れ、乳を出す不思議榎が松月院にあると教え、やがてその榎の乳で育った子・真与太郎は父を殺した浪江を討ち仇を取る。」というもの。

歌舞伎はそれとは少し変化がある。
浪江を手助けする「下男の正助」、「浪江をゆすろうとする、うわばみ三次」が登場する。また、亡霊の登場の仕方も違う。
歌舞伎「怪談乳房榎」は、原作通りに仇討ちでおわるが、醍醐味は「絵師重信」「下男正助」「うわばみ三次」を一人三役で演じ、しかも「早替わり」で3人が入れ替わるというもの。番付をその部分を引用すると、
「本作の魅力は、正助、三次、重信という性格の異なる三役を、早替わりという歌舞伎ならではの演出法を用いて演じ分けることにあります。中でも「花屋二階」の場面では、階段を用いて、三次と正助を一瞬で替わる件は大きな見どころ。これに続く「田島橋」での重信が殺される場面では、重信、正助、三次を鮮やかに替わります。そして、大詰めの「大滝」では、本水を使用したスペクタクルな演出を用いて、正助と三次を何度も早替わりで替わって演じます。」

早替わりは、姿形のよく似た何人かの役者さんが協力し、楽屋スタッフ総出で衣装や化粧の協力、勘九郎さん自身が座席の下にあると思われる地下の通り道を全速力で走っていることなど、文字通り全力で駆け回っていることのたまものだと思う。
早替わりの仕組みを探るよりも、歌舞伎役者の芸事を楽しむことが、歌舞伎見物の楽しみだと私は思った。
早替わり成功の秘訣は、勘九郎さんが、重信、正助、三次をきっちりと演じ分けているところにあると思う。観客である私たちが、登場人物の姿勢、声、動作をとおして、舞台の人物に感情移入できるからこそ、早替わりとして楽しめるのだろう。

勘九郎さんにかたよったブログになってしまったが、七之助さんの「野崎村」の「お光」は、絶品だったと思う。美しい七之助さん目あてのお客さんも、きっと多かったと思う。

猿之助さん演じる「磯貝浪江」は、悪役としての魅力があった。
初めての役だそうだが、これからのはまり役になるのではないか、と思えるほどぴったりだった。

「大滝」の前の幕間で、「水が飛んで来るので、ビニールでカバーしてください」という舞台番の弘吉は市川弘太郎さん。このおしゃべりがまた楽しかった。
「今日の勘九郎は元気です!」と何回かビニールで体をカバーするリハーサルを要請していたが、たしかに勘九郎さんは元気だった。座席10列目以上に水を飛ばしていた。花道でも濡れた着物を振って、水を飛ばしていた。お客さんもうれしそうに笑っている。USJのウオーターワールドの世界のようだった。

劇の終わり方も面白かった。あれっ?! と多くの人は思ったと思う。でもこれも演劇の終わり方、という一つのやり方。子殺し、師匠殺し、仇討ち、と重くて暗いムードをさっと切り替える。これも早替わりか。楽しい演目だった。

道頓堀は相変わらず賑やか。外国人観光客も多い。江戸時代もこんな賑わいだったのだろう。

私の目を引いたのは、アーケードのフラッグ。

今宮高校の書道部、ではない、書画部だそうだ。
母の日フェア、これもおもしろいなあ。さすが大阪だ、道頓堀だ。
この界隈が地元に息づいているのが伝わってくる。

勘九郎さん、七之助さん、猿之助さんをはじめ、若手の歌舞伎役者のみなさんも元気だ。高校生も元気にバナー作品をかいている。この元気が明日の活力に。
さあ、私も元気にがんばろう。

 

 

阿弖流為(アテルイ)

松竹座で公演中の歌舞伎NEXT「阿弖流為」を見に行く。歌舞伎NEXTとは?

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IMG_20151009_0002作  中島かずき
演出 いのうえひでのり
俳優 市川染五郎、中村勘九郎、中村七之助などの芸達者な面々。

劇の内容は、パンフレットによると以下のとおり。
「古き時代、日の国ー。大和朝廷は帝による国家統一のため、帝人(みかどびと)軍を北の地に送り、そこに住むまつろわぬ民、蝦夷(えみし)に戦いを仕掛けていた。その頃、都では蝦夷の”立烏帽子党”と名乗る盗賊一味が人々を襲っていた。それを止める一人の踊り女。
彼女こそ立烏帽子(中村七之助)。女だてらの立烏帽子党の頭目だった。
街を襲う盗賊が自分たちの名を騙る偽物であることを暴くために変装していたのだ。そこに都の若き役人、坂上田村麻呂(中村勘九郎)もかけつける。さらに”北の狼”と名乗る男(市川染五郎)も現れ、偽烏帽子党を捕らえる。
この事件をきっかけに、北の狼と田村麻呂は互いに相手に一目置くようになる。
だが、北の狼と立烏帽子は、蝦夷が信じる荒覇吐(あらはばき)神の怒りを買い、故郷を追放された男女だった。
北の狼の本当の名前は、阿弖流為(アテルイ)。故郷を守り帝人軍と闘うため、立烏帽子と二人、蝦夷の里に戻ることにする。
荒覇吐神の怒りをおさめた阿弖流為は、蝦夷の兵を率い、帝人軍と闘う。
彼の帰還を快く思わぬ蝦夷の男、蛮甲(ばんこうー片岡亀蔵)の裏切りにあいながらも、丹沢の砦を取り戻した彼は、いつしか蝦夷の新しい長として一族を率いていく。一方田村麻呂も、帝の巫女である姉、御霊御前(みたまごぜんー市村萬次郎)や右大臣藤原稀継(ふじわらのまれつぐー坂東彌十郎)らの推挙により、征夷大将軍として、蝦夷との戦いに赴くことになってしまう。
阿弖流為と田村麻呂、互いに認め合う二人の英傑が、抗えぬ運命によって、雌雄を決する時がこようとしていた」。

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歴史は勝者のもの。支配者の都合の悪い部分は切り取られ、「正義」の名のもとに少数者は切り捨てられ、忘れ去られるように仕組まれる。

「阿弖流為」という名は歴史上にはほんの少ししか残されていないようだ。
しかし残されていたことによって、結果的には1300年たった現在によみがえることになる。

この歌舞伎NEXT「阿弖流為」はあくまでも想像の産物。現代が創造した演劇。登場する人物や団体名は実在するものではありません、とテロップがながれるドラマと同じである。
しかし歌舞伎は支配者の思惑や時代の主流から一歩外れ、斜めに時代と人間を見ることによって民衆の支持を得てきたもの。そのコンセプトがしっかりとこの歌舞伎NEXT「阿弖流為」に生きている。

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市川染五郎ファン、中村勘九郎・七之助ファンにとってはもうたまらない出し物になったと思う。三人三様の魅力がたっぷりだし、その他の登場人物のだれもが「おれが主役だ!」と舞台から飛び出してくるように観客に迫ってくる。
舞台効果も音も光も効果満点。衣装は堂本教子さん(舞台衣装では有名な人であることを後で知った)、そして現代の音響機器と歌舞伎の拍子木や太鼓などの伝統音楽が見事にコラボレーションし、「阿弖流為」の中に観客を引き込んでいく。

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左の写真は歌舞伎流に番付といえばよいのか、プログラム。
そして私の左手首あるのが、この「阿弖流為」に全員参加のためのアイテムのリストバンド。
こんな説明書きが一緒にあった。

「お客様へのお願い
本日はご来場いただきましてありがとうございます。
蝦夷と帝人軍の様々な人間模様を描く本作ですが、蝦夷の星空はたいそう見事なものだそうです。
お配りした白いリストバンドはそんな”蝦夷の星空”の素です。

壱 二幕目がはじまるまでに腕にお巻きください。
弐 お芝居のエンディングで自然に光ります。

参 光りましたら手を揚げて一緒に蝦夷の星空をつくりましょう。
  *少しだけ腕を揺らすと尚良いです。
IMG_20151009_0005会場いっぱいの星空を写真に撮れなかったのが残念だった。
蝦夷の星空と劇場内の星、それは地上の星となって歴史を作り、消えていった人々のことをおもう星たちだった。

インターネットを見ると、この「阿弖流為」の感想がいくつもあった。 みんな感激して観劇したことが想像される。 わたしは歌舞伎NEXTのことも作者の中島かずきさん、演出のいのうえひでのりさんのことは、いくつか見た劇団☆新感線の舞台劇ぐらいでしか知らない。
でも「おもしろかった」。
第2部の2時間が、月次な言い方だが、あっという間に終わってしまったという感じだった。
内容がありメッセージもたっぷり仕込まれている原作も演出もすばらしい。そしてその素晴らしい作品に生命を吹き込んだのが市川染五郎さん、中村勘九郎さん、中村七之助さんたちの舞台俳優の面々だったと思う。

カーテンコールが3回! 1階も2階も私が見えるところはほぼ100%のスタンディングオーベーション。松竹座がこんなに盛り上がった舞台は見たことがない。
帰りの階段、エスカレーターはほとんどの人がニコニコ笑顔だった。
あー、良い物を見た。楽しかった、足どりが軽い、明日はいい日になるかもしれない、何かそんなワクワク感が劇場内に流れていた。

「アテルイ」という言葉を聞いた時に、何か以前に耳にしたことがあるような気がしていた。帰って調べてみると、あった、これだ。

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http://www.nao.ac.jp/gallery/weekly/2014/20140422-aterui.html

阿弖流為1理論天文学の望遠鏡、スーパーコンピュータ「アテルイ」

Cray XC30「アテルイ」は国立天文台が運用する第4世代の数値シミュレーション専用スーパーコンピュータです。水沢VLBI観測所に設置され、2013年4月から共同利用運用をしています。24,192コアという非常に多くのコアを使用することで、システム全体で502Tflopsという高い理論演算性能を実現しています。アテルイはその中に宇宙を作り出し、実験的に天体現象を解明する、いわば理論天文学の「望遠鏡」なのです。

アテルイが見る宇宙

アテルイが計算しているのは、宇宙におけるあらゆる現象です。宇宙全体の構造の形成のような非常に大きなスケールから、地球のような惑星がどのようにしてできるかという小さなスケールのものまで、幅広い範囲の天体現象を扱っています。さらに138億年という宇宙が始まって現在に至るまでの長い時間から、ほんの1秒にも満たない星の爆発の瞬間まで、さまざまな時間スケールの現象をシミュレーションによって明らかにしようとしています。

アテルイの由来

アテルイ(阿弖流為)は、奈良時代から平安時代はじめに水沢付近に暮らしていた蝦夷の首長です。朝廷の大規模な軍事遠征に対して勇敢に戦った英雄として知られています。このスーパーコンピュータも、水沢の地で果敢に宇宙の謎に挑んで欲しいという願いをこめて、アテルイという愛称がつけられました。筐体には、篆書の「阿弖流為」を電子回路のようにデザインしたロゴが記されています。

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高さ2m、長さ12m、奥行き1m50cm。、重さ約9トンという、天文学専用では世界最速のコンピュータだ。岩手県奥州市(おうしゅうし)に設置されている。

それにしても、国立天文台のスーパーコンピュータに「アテルイ」というニックネームがつくなんて。
戦神としてこの地を呪うのではなく、宇宙の仕組みを追求する最先端で闘う神となったのかもしれない。
「アテルイ」という名前は生き続けている。

 

 

 

真田十勇士

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IMG_7496ここは「梅田芸術劇場」。いま大人気の「真田十勇士」を見に行った。

この劇場は1992年に梅田コマ・スタジアムの発展的移転としてこの場所に立てられた。最初は「飛天」といっていたが、名前の変遷があり今は「梅田芸術劇場」にかわっている。だから「梅田芸術劇場ってどこ? ああ飛天か」ということも私の中ではある。

IMG_7486左の写真は、舞台終了後の様子。手に持っているのは今回の舞台公演のプログラム。とにかくでかい。画用紙の大きさぐらいで持ち運びもこまるし、家に持って帰ってもどこにおくの?と思うぐらいだった。
プログラムというよりも、出演者のアルバムといっていいぐらい。もうすこし解説もあっていいのじゃない?と思ってしまって。舞台の写真も全くなく、このブログにのせた舞台の写真はチケット販売のホームページからとった。
キャストは下の写真のとおり(本当はもっとたくさんいるが、十勇士だけにした。のっていない人たちにはごめんなさい)。これも公式ホームページからとった。
私は中村勘九郎さんめあてで公演に行った。
真田十勇士

大坂冬の陣(慶長9年・1614年)、ここは「おおざか」と読むほうがこの舞台にあっていると思う。大坂冬の陣から400年。役者さんたちも地元大坂での公演ということで気合もはいったんじゃなあかな、と思うぐらいにはじけていた。大阪弁でしゃべる火垂(ほたるー比嘉愛未さん)もかわいい。

真田十勇士1観客のお目当ては、私のように中村勘九郎(猿飛佐助)さんか、あるいは松坂桃李(霧隠才蔵)さんかに大きくわかれると思う。
とにかく出演者が若い。
比嘉愛未さん28才、松坂桃李さん26才、中村蒼さん(真田大助)23才、村井良大さん(海野六郎)26才、鈴木伸之さん(三好伊三)22才、福士誠治さん(根津甚八、秀頼)31才、高橋光臣さん(筧十蔵)32才、青木健さん(望月六郎)30才、加藤和樹さん(由利鎌之介)30才。
そんななかで、中村勘九郎さん33才が活き活きと演技をしている。
舞台を引き締めているのは、真田幸村役の加藤雅也さん、大野治長役の奥田達士さん、柳生宗矩役の野添義弘さんなどのベテラン。そして忘れてはならない、淀君の真矢みきさん。
おっと特筆すべきは、映像出演の平幹二朗さん(徳川家康)と、ナレーターの坂東三津五郎さん。平幹二朗さんの眼の演技、坂東三津五郎さんの講談を聞いているような語り口調はこれが芸なのだと感心する。

真田十勇士2ストーリーについては特に書く必要がないと思う。誰もが知っている大阪冬の陣での真田幸村の活躍と、豊臣家の滅亡の話。
主人公に猿飛佐助を持ってきて、「何が真実で何が嘘なのかー嘘も突き通せば真実になるのでは?」と、歴史のIFを楽しむ演劇だと思う。歴史的事実にも配慮されている。堤幸彦監督も何度も大阪城に取材に行ったとプログラムにあった。また秀頼生存説があることもこの演劇で知ることが出来た。
真田十勇士3とにかく見て楽しむエンターテイメントの作品だと思う。
ワイヤーアクション、ビジュアルたっぷりの演出、舞台だけでなく客席を駆けまわる三次元的な構成。これが2014年の演劇なんだろう。
歌舞伎と違ってマイクを使っているので台詞は客席の隅々まで届く。そのなかでも中村勘九郎さんの声はよくとおる。大きな声も小さな声も、滑舌がいいのと、歌舞伎で鍛えたのどだからだろう。雰囲気がお父さんの中村勘三郎さんに似てきている。お父さんの勘三郎さんのあとを追いかけているのだろうと思う。前に前にと遠くを見ている姿が清々しかった。
カーテンコールは最後は客席のスタンディングオベーション。
舞台上では全員が直角90度の礼、その中でも真矢みきさんの着物の裾さばきとそろえた指、礼の姿が美しかった。

IMG_7483さっきまで舞台と客席の一体感が感じられたメインホールも静に静まり返っている。猿飛佐助は終了間際に言う、「何が本当で、何が嘘なのかわからなくなっちゃうなあ」。

 

この時私の頭に横切ったのがシェークスピアの有名な一節

*       *

All the world’s a stage
And all the men and women merely players.
この世は舞台、ひとはみな役者

*    *

人はみな自分自身が主人公のオリジナルな舞台を精一杯に一生懸命生きている。