スーパー歌舞伎 ワンピース

ここは松竹座、今話題になっているスーパー歌舞伎「ワンピース」を見に行った。

11時からの公演に行ったが、ウィークデーなのに行列ができていた。
4月1日から25日までの公演だが、1階のS席はチケット販売が始まって数分でソールド・アウトといううわさが飛び交っているぐらいの大人気だ。
この日のお客さんの層も、普段の歌舞伎と違って多様な年代、服装も着物もカラフルな洋服もあり、スーパー歌舞伎の幅の広さを感じさせるものだった。

猿之助さんが舞台で骨折したことで話題になった。 大阪では4バターンでの公演。 A ルフィ・ハンコック 市川猿之助。イワンコフ 浅野和之。
  サディちゃん・マルコ 尾上右近。シャンクス 平岳大
B ルフィ・ハンコック 市川猿之助。イワンコフ 下村青。
  サディちゃん・マルコ 尾上右近。シャンクス 平岳大
C ルフィ・ハンコック 尾上右近。イワンコフ 下村青。
  サディちゃん 坂東新悟。マルコ 中村隼人。シャンクス 市川猿之助。
D ルフィ・ハンコック 尾上右近。イワンコフ 浅野和之。
  サディちゃん 坂東新悟。マルコ 中村隼人。シャンクス 市川猿之助。

私が見たのはDの配役。ルフィは尾上右近さんだった。

公演が始まる前の舞台。ルフィのフィギアが両手を上げてたっている。あちこちで携帯で写真を取っている。公演中の写真撮影は禁止だが、幕間はオーケーのようだ。

ワンピースのあらすじを紹介する必要はないだろう。漫画は全世界といっていいほどの大人気になったし、映画にもなった。

家に帰って夕刊を見ると、ちょうどこの「スーパー歌舞伎 ワンピース」の舞台評論がのっていた
(朝日新聞夕刊)

この評は、3日の夜の部を見てのものだが、おおいに参考になる。3日の夜というと、配役はAの構成になる。
ルフィを演ずるのは猿之助さんだ。

猿之助さんは舞台番付にこのように書いている。
「・・・・最後に、この曲(ゆずの歌うTETOTEのこと)の『開けない夜など絶対にありはしない』という歌詞に励まされ、仲間たちに支えられ、今日という日を迎えることができました。本当にありがとうございます。今の僕には、ルフィの気持ちが痛いほどわかります。なので、心から叫びたいと思います。
『仲間がいるよ!!!!!』
今回も更なる進化と深化を目指し、様々な仕掛けを散りばめています。どうぞ最後までお楽しみください。」

幕間の舞台に流れるタンバリンの宣伝。なんだこれは?
劇場内にも左のようなポスターがはってある。
「Far Far Time で盛り上がろう!
スーパータンバリン」と書いてある。

その部分の新聞記事を引用すると、

「エースが海軍本部へ移されたため、ジンベエ(市川猿弥)とルフィは後を追う。ルフィはサーフボードに乗って海へ。ここで宙乗りになる。ゆずの歌う主題歌「TETOTE」が流れ、光が交錯すると、観客は総立ちになって大歓声。巨大なクジラが中を浮遊し、劇場全体が大祝祭空間に。盛り上げる猿之助の役者ぶりがひかる。」

サーフボードに乗って花道に出る右近さん。ジンベイがひもを持っているので、このままずるずると花道を引っ張っていくのかなあ、それも愛嬌かなあ、と思っていたところが、ここから宙乗りになったのだ。松竹座の4階の高さまで上がっていく。しかもスケートボードに乗っている仕草をしながら。バックにはゆずの歌声。
ここでスーパータンバリンが活躍する。会場の様々方向からタンバリンのたたく音が響く。見ているお客さんもスタンディング。
歌舞伎というよりもオペラのステージみたい。
巨大なクジラが劇場の空間をゆうゆうと漂い始めると、ここはどこだ?
時代はいつだ? 過去か未来か現在か? ワンピースの世界にはまりこんでしまう。

ゆずの北川さんは番付にこう書いている。
「・・・初演では、主題歌『TETOTE』が流れる二幕後半、ルフィの宙乗りのシーンで『Far』のコーラスに合わせてお客さんが総立ちになり、とても感動したのを覚えています。お客さんと『ワンピース』が『TETOTE』で繋がったと感じた瞬間でした。・・・今回はゆずとして、僕ら自身がその曲を歌わせていただきます。・・・あの感動を思い描きながら、心をこめて歌いました。・・・後略・・・」

2幕と3幕の間に「To be continued 」の文字。その後ろにいるのが巨大クジラ。
このクジラが客席に漂ってくると、その大きなこと。

宙乗り、早変わり、大量の水を使ったアクション、スーパー歌舞伎の醍醐味がふんだんに散りばめられている。練習も大変だったろうなあ、しかも40回の公演。その体力にも感心する。

番付には主役以外の人達約70人の名前。そしてその人達の写真が7ベージ。
スーパー歌舞伎「ワンピース」が、猿之助さんや右近さんのようなスーパースターだけでなく、様々な役者さんたち、多くの仕事で支えている人たちの活躍があってこそ成立している、そのことがわかるような番付のつくりになっている。

私が「歌舞伎だなあ」と感じたのは、市川右團次さんの演技。
その台詞回しは目をつぶっていると歌舞伎の舞台そのもの。
声の調子、言い回し、そして私のいる2階にまではっきりと聞き取れる滑舌の良さ。これがあってこそ「スーパー歌舞伎」だと思った。

番付に市川右團次さんは書いている。
「新たなものを取り入れつつも根幹である歌舞伎の部分がなければスーパー歌舞伎にはなりません。そして白ひげは『ワンピース』のさまざまなキャラクターの中でも、最も歌舞伎的な部分を担っている役だと思います。歌舞伎をよくご存知の方には申し上げるまでもありませんが、白ひげの鎧や籠手、脛当ては古典の『義経千本桜』の『大物浦』で平知盛が身につけているものです。歴代の先輩方がお召になり受け継がれてきたものですから、ちょっと袖を通しただけでも手に白粉がつきます。・・・・略・・・・。」

歌舞伎の古典と未来を繋いでいる姿を体現したものだといえる。

普段の歌舞伎には珍しいフィナーレで終わる。
役者さんたちの楽しそうな顔。手話でお礼を言っている人もいる。ポーズを決めている人も、それぞれが「今度はこんなことをしよう」「次はこんな形で喜びを表そう」などと考えているに違いない。役者さんの気持ちが伝わってくるようなフィナーレだった。

ふと思ったことがある。「正義」と書いたマントを羽織っていた海軍の士官たちの姿は、権力者が云うことが正義なんだ、と今の時代を風刺するようにも思えた。こんな時代こそ「スーパー歌舞伎ワンピース」の意味があると思う。

舞台を見終わったお客さんの多くは笑顔だ。公演が終わって外に出ると、道頓堀の風景はちょっと明るいように見える。
松竹座の「ワンピース」の看板の写真を撮っている西洋人らしい人も多い。
4月1日〜25日までの40回の公演。松竹座の収容数は約1000人。
かんたんに計算してみても4万人の人がこの「ワンピース」を見るのだと思うと
4万人の人たちの笑顔が想像できる。笑顔が自然に浮かんでくる世界へ、新しい宝物をさがす旅、未来を信じる勇気を考えさせるエンターテイメントがこの「スーパー歌舞伎 ワンピース」だと思った。

 

 

 

新・水滸伝

新水滸伝

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27日が千穐楽になる「新・水滸伝」を見に行く。
新歌舞伎座での初公演。スーパー歌舞伎と銘打っていないけれど、私はスーパー歌舞伎の気分でとっても楽しめた。
スーパー歌舞伎は、
2001年の「新・三国志Ⅱ 孔明編」
2004年の「新・三国志Ⅲ 完結編」
2008年の「ヤマトタケル」
と見てきて、今年の1月の松竹座は市川猿之助襲名披露公演として、スーパー歌舞伎があるのではという噂が流れ、楽しみにしていたがそうではなかった。
しかし、新歌舞伎座で「新・水滸伝」の公演を十分に楽しめた。

 

IMG_20130826_0005 今回の演目は「21世紀歌舞伎組 三代目猿之助48撰の内 新・水滸伝」が正式?。21世紀歌舞伎組は三代目猿之助(現・猿翁)が一門の若手を育成するために作った歌舞伎集団。その座長が今日の主役の林冲(りんちゅう)を演じる市川右近さん。
舞台開始前に、彭き(き・漢字は王+己)(読みは「ほうき」)役を演じる市川弘太郎さんの舞台挨拶。挨拶というよりも鑑賞にあたってのお願いみたいなもの。写真ダメとか、ここで拍手をなど軽妙な口調で舞台へのいざない。演者と観客の心が少しつながってきたところで開幕。

 

IMG_20130826_0006 お話は中国の水滸伝をもとにして創作されたスケールの大きい群像劇。2008年に初演。
梁山泊に集まる悪党の頭・晁蓋(ちょうがい)と、かつては兵学校の教官まで勤めながら今は天下一の悪党といわれる林冲を中心にして、乱れていた北宋をぶっつぶして立て直そうとするお話。

写真は晁蓋を演じた笠原章さん。新国劇出身の俳優さんが歌舞伎の舞台に登場するところがおもしろい。

これも市川猿之助さんの演出によるものか?

替天行道(たいてんぎょうどう)

IMG_20130826_0001 市川右近さんが左手に持っている布には「替天行道」と書かれている。劇中では「ぎょうどう」と読んでいた。
意味は「てんにかわりて、みちをおこなう」
「新・三国志」では「信ずれば夢はかなう」
「ヤマトタケル」では「天翔ける心」
がキャッチフレーズだったと思うが、
「新・三国志」は「替天行道」。

いやー、それにしても右近さんの滑舌がいい。よくもあんなに長いセリフをはっきりと言えるものだ。他の役者さんはほとんど現代の口調でセリフを言っていたが、右近さんはしっかりと歌舞伎調。声の抑揚も歌舞伎の言い回し。これが妙に林冲にあっていた。
市川右近さんは大阪出身。小学校まで大阪にいて単身東京に行き猿之助さんの部屋弟子となって精進を重ねて今となる。

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市川笑也さんの青華(せいか)、笑三郎さんの姫虎(ひめとら)、して春猿さんのお夜叉(おやしゃ)は21世紀歌舞伎組自慢の女方。青華の生真面目さ、姫虎の頼りになる姉御、お夜叉の隣のおねえちゃんぶりはよく個性がでていた。
青華と王英(おうえいー市川猿弥)の初々しいデート場面で観客の私が思わずニッコリした時に、「よう!ご両人」と大向うから声が掛かる。ピッタリのタイミング。ここで歌舞伎の醍醐味を感じた人も多かったと思う。

IMG_20130826_0007 私の印象深かった俳優は新々(しんしん)を演じた日下部大智さん。写真最上段の左から二人目の少年(新々は戸塚世那さんと交代。この写真は戸塚さんのようだ)。よく通る声、メリハリのある動き。止まるときは本当に動かない。えっ、大丈夫?じっと見ていると足がすこし震え出す。でも動かない。歌舞伎の静と動をきっちりわかっているようだ。

舞台全面に鏡を使って、客席と舞台を一体にした演出、客席が舞台と化す闘いの場面。そして右近さんの宙乗りが二回などなど、エンターテイメント精神があふれた舞台だった。

もう一つおもしろかったのが、普段の歌舞伎や演劇だったら「ここで第一幕は終了だ」というタイミングがすべて裏切られたこと。えーっ、このまま最後まで突っ走るのかな、と思うぐらいの迫力だった。

カーテンコールめいた終わり方も楽しめた。笑也さんの笑いながら腰をくねらしたエンディング、猿弥さんのOKサイン、役者さんも楽しんでいた。私は思わずスタンディングオベーションをしました。27日の千穐楽は大カーテンコールがあるらしい。きっと全員のスタンディングオベーションがあるに違いない。

すべてが終わったとき、前に座っていた女性が「あー面白かった。すっかりはまってしまいそう」と言っていた。
江戸時代の歌舞伎はきっとこんな感じだったのだろう。明日の変化が感じられない時代でも、舞台で言っていたように「ここから何かが変わるのかもしれない」。

すこし心が軽くなって、明日を夢見ることができる。これが歌舞伎の力だと思う。