Sansho-dayu 山椒大夫7

At the top of the mountain, Anju said,”Listen carefully, Zushio. I have been planning this for a long time. That’s why I was so quiet.”
Then she pointed to the south. “Do you see that road down there?

I heard it goes to a big city.
It’s time for you to go.
Meet someone to help you, and find our father and mother.”

「厨子王や」と弟を呼びかけた。「わたしが久しい前から考えごとをしていて、お前ともいつものように話をしないのを、変だと思っていたでしょうね。もうきょうは柴なんぞは苅らなくてもいいから、わたしの言うことをよくお聞き。小萩は伊勢から売られて来たので、故郷からこの土地までの道を、わたしに話して聞かせたがね、あの中山を越して往けば、都がもう近いのだよ。筑紫へ往くのはむずかしいし、引き返して佐渡へ渡るのも、たやすいことではないけれど、都へはきっと往かれます。お母あさまとご一しょに岩代を出てから、わたしどもは恐ろしい人にばかり出逢ったが、人の運が開けるものなら、よい人に出逢わぬにも限りません。お前はこれから思いきって、この土地を逃げ延びて、どうぞ都へ登っておくれ。神仏かみほとけのお導きで、よい人にさえ出逢ったら、筑紫へお下りになったお父うさまのお身の上も知れよう。佐渡へお母あさまのお迎えに往くことも出来よう。・・・略・・・」

“But what about you?”
“I will stay.
Take this stature with you.
It will protect you.”
Anju handed the stature to her brother.
Zushio didn’t want to leave her, but he understood that this was Anju’s wish.

「わたしのことは構わないで、お前一人ですることを、わたしと一しょにするつもりでしておくれ。お父うさまにもお目にかかり、お母あさまをも島からお連れ申した上で、わたしをたすけに来ておくれ」
・・・・略・・・・姉は今年十五になり、弟は十三になっているが、女は早くおとなびて、その上物にかれたように、さとさかしくなっているので、厨子王は姉の詞にそむくことが出来ぬのである。
 木立ちの所まで降りて、二人は籠と鎌とを落ち葉の上に置いた。姉は守本尊を取り出して、それを弟の手に渡した。「これは大事なお守だが、こんど逢うまでお前に預けます。この地蔵様をわたしだと思って、護り刀と一しょにして、大事に持っていておくれ」

She took a leaf from a tree and filled it with spring water.
“This is to celebrate your future.”
They both drank from it.
Zushio promised to meet her again, and started to run as fast as he could.

・・・二人は急いで山を降りた。足の運びも前とは違って、姉の熱した心持ちが、暗示のように弟に移って行ったかと思われる。
 泉のく所へ来た。姉は・・・木のまりを出して、清水を汲んだ。「これがお前の門出かどでを祝うお酒だよ」こう言って一口飲んで弟にさした。
 弟はまりを飲み干した。「そんなら姉えさん、ご機嫌よう。きっと人に見つからずに、中山まで参ります」
 厨子王は十歩ばかり残っていた坂道を、一走りに駆け降りて、沼に沿うて街道に出た。そして大雲川の岸を上手へ向かって急ぐのである。

Anju watched her brother until she could not see him anymore.

A few hours later, Anju was nowhere to be seen.

Sansyo-dayu was really angry.
He ordered his men to search everywhere.

Finally, by a quet pond , they found a pair of sandals.
Those were Anju’s.

安寿は泉のほとりに立って、並木の松に隠れてはまた現われる後ろ影を小さくなるまで見送った。そして日はようやくひるに近づくのに、山に登ろうともしない。幸いにきょうはこの方角の山で木をる人がないと見えて、坂道に立って時を過す安寿を見とがめるものもなかった。
 のちに同胞はらからを捜しに出た、山椒大夫一家の討手が、この坂の下の沼のはたで、小さい藁履わらぐつを一そく拾った。それは安寿のくつであった。

森鴎外の「山椒大夫」では、安寿は沼に身を投げている。
「日本名作ものがたり あんじゅとずし王 朝日ソノラマ」では、足を滑らせて谷底に落ちている。
「日本伝説 あんじゅとずし王 偕成社」は、追手は沼のほとりに安寿のぞうりを見つけている。
「新・講談社の絵本 安寿姫と厨子王丸 講談社」では、厨子王と別れたあとの安寿のことは書かれていない。
「アンジュと頭獅王 吉田修一作 小学館」では、安寿は湯責め、水責め、キリで膝をつく、最後には火責めで命を落としてしまう。
説話では、安寿はひどい拷問によって命を奪われてしまうらしい。
森鴎外は「山椒大夫」を書くときに、そのような残酷な部分は削除したと伝えられている。

可哀想な安寿。厨子王は山椒大夫の追っ手から逃げ切れるのか。また佐渡に流されたという母はどうなったのだろう。物語は次の段階に移っていく。