義経千本桜 文楽

ここは千日前にある国立文楽劇場。 緊急事態宣言が出ているが、チケットを購入していたし、文楽が中止になったというお知らせもなかったのでやってきた。

文楽人形の頭かマスクを付けてのお出迎え。 入り口でもマスク着用、体温の計測があった。私はいつもの癖で鼻を出していると、「お客さま、マスクは鼻までお願いします」と注意された。
マスクをした人形の後ろの休憩用の椅子も、仕切りが設けられ、向かい合って座れないようになっている。ここも飛沫感染に気を使っているのがよく分かる。

蜜を避けるために座席数は半数になっていた。夜の部も終了が8時に間に合わせるように、休憩をなくすなどのタイムテーブルの見直しがあると掲示されていた。

座席は一列目と太夫周辺には座れないようになっていた。
飛沫感染予防のためと思う。

私はお昼の部に行ったので、途中休憩があった。 ロビーにある休憩所は喫茶の販売はなく、自動販売機で購入するだけである。 テーブルにはアクリル板が置かれ、向かい同士に座れないようになっている。 私は缶コーヒーを買ってすわっていたが、この休憩室を利用する人はほとんどいなかった。

舞台正面上には、今年の干支の「丑」の文字と、「にらみ鯛」が飾られている。「にらみ鯛」の本物はロビーに飾られていた。 舞台のにらみ鯛は永らく絶えていたものを復活したものだそうだ。

午後2時30分開演の第二部は、「碁太平記白石噺(ごたいへいきしらいしばなし)」と「義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)」。
「碁太平記白石噺」はこれまで見たことがなかった演目。 買ったパンフレットによると、これは実話にもとづいているいう。「月堂見聞集」という見聞記に、亨保8年5月(1923年)に「仙台より写し来り候仇討之事」として記録されているものがあるそうだ。姉妹が父の仇討ちをしたという記録があるという。
文楽では、奥州逆井村の貧しい百姓の娘のおのぶは、代官に殺された父の仇を討とうと決心し、遊女奉公をしている姉を訪ねて一人で江戸に出ていく場面から始まる。私達が見たのは、これもパンフレットによると「父の仇討ちを誓う生き別れの姉妹の再会」の場面。
揚屋の主人惣六が、姉妹の仇討の話を聞いて「曽我物語」を引用して意見するところがクライマックスだった。田舎訛りの妹、傾城宮城野の廓言葉、惣六の語りと、豊竹呂太夫さんと鶴澤清介さんの熱演がすばらしかった。

義経千本桜は四段目からの「道行初音旅(みちゆきはつねのたび」。

私は歌舞伎でこの「義経千本桜」や、このあとの「河連法眼館」を見たことがあるが、文楽では初めてだった。
狐忠信がどのようにして登場するかが楽しみだった。
幕が上がると舞台は一面の桜。
太夫と三味線11名が桜色の衣装で会場がとても華やかな雰囲気になる。なんでも三味線の鶴澤清治さんは文化功労者として顕彰されたそうだ。その記念として孫弟子までの一門での出演となっている。
狐忠信は狐の姿で登場した。後ろ足でお腹を掻いたりと、なんとも可愛らしい姿。
木陰に姿を隠して、旅姿の忠信として登場する。
義経からもらった鎧と鼓を義経にみたてて、八島の戦いなどの源平合戦のありさまを、静御前とともに舞うのが圧巻の演技だと思う。
静御前が矢にみたてて後ろ向きに投げた扇を狐忠信がハッシとつかむのには驚いた。
人間でもなかなかできないこと。人形がここまで活躍するにはそれは長い時間の練習の賜物だと感心する。さすが大阪の文楽はすばらしい。
再び歩みをすすめる狐忠信が、静御前の持つ鼓にすりよるのがまた可愛らしい。

帰りに法善寺の水掛不動尊におまいりする。
お参りしている人の姿はない。お店も休んでいるところが多い。営業するお店も「午後8時閉店」の紙が貼ってある。
道頓堀もグリコの看板には電気がついていない。
橋を渡る人の姿もコロナの影響、緊急事態宣言の指示の通りずっと減っている。
国立文楽劇場は新型コロナウイルス感染予防のため、必死の努力をしている。
芸術は人の生き方に力を与えてくれる。文楽などの伝統芸能の火を絶やしてはいけないという心意気が感じられる。
2021年、まさしく私達の生き方が試されている年のような気がする。