泥炭の不思議

アイルランド・カルチャー講座2

7月4日にアイルランド・カルチャー講座の2回目があった。
私はリアルタイムでは見ることができなかったので、ユーチューブで講義に参加した。
テーマの泥炭、泥炭についてどれだけのことを私が知っているのだろう。記憶を探れば小学校の時、北海道について勉強したときに習ったような気がする。屯田兵として開拓した人たちが泥炭に悩まされたとか、泥炭は石炭になれなかったもの、というマイナスイメージで受け取っていたように思う。見たことも触ったこともないものだった。

昨年の9月に松本侑子先生企画のアイルランドツアーに参加した。 そのことはこのブログにも書いている。
そのとき、北アイルランドのダンルース城を訪れたが、その日の昼食のレストランで左の写真にある「暖炉」を見た。
見た瞬間、これは泥炭に違いないと確信した。いや、泥炭の暖炉という説明があったのかもしれないが、、、、ツアーのほとんどの人は関心を持っていないように見えた。松本侑子先生だけが私が写真を撮っているのを見て近づいてきたぐらいだった。拡大したのが下の写真。

暖炉の右そばのかごに入っている黒い物体が泥炭。
さわってみると、思いのほか軽い。石炭ぐらいの重さを想像していたが、ずっと軽い。もう少し触ってみたかったが、バスの案内があったのでこの写真だけになった。

左の写真は、貴族の館をホテルにしたCABRA CASTLE に泊まったときに撮した暖炉。
炎の力強さが違う。これは石炭の暖炉だと思う。
山下直子さんの講義の中で、アイルランドの人たちは17世紀頃から泥炭を燃料にして使っていたという説明があった。現代でも個人の家で使われていて、「泥炭だけでは火力が弱いので、石炭を足して使う」こともあるそうだ。

山下直子さんのお話によると、泥炭には2種類あるそうで、レイズドボグという隆起状泥炭とブランケットボグ(毛布状泥炭)に分けられるそうだ。

レイズドボグは内陸部に多く、平らで深く、商業利用されていて、約9000年前からのものがあるそうだ(上の地図の赤い部分)。
ブランケットボグは西部に多く(上の図の茶色い部分)、山の斜面で雨の多いところに、毛布が覆っているように泥炭層があるそうだ。約4000年前からのものがあるという。こちらはレイズドボグほど深くはなく、平均1メートル50センチぐらい。
泥炭ができるのは、1年で1ミリメートルというから、9000年前のものは9メートルの深さになっている。
日本では北海道に多く泥炭があり、6メ−トルの深さのものがあるから、そこは6000年前からのものになる。想像するだけで気の遠くなるような時間だ。

上の写真は北アイルランドのサイレントバレーを散策したときのもの。 6000年以上前のアイルランドはこのような森林が大地を覆っていたのだろう。 ケルトの人が入り、農耕が始まり、多くの森林が切られていった。 石炭もあったらしいが、掘り尽くし、泥炭が天然資源として残された。
日本でも泥炭を燃料として使っていた地域はかなりあったようだ。私はアイヌの人たちは泥炭をどうしていたのだろか?と疑問に思ってネットで調べてみたがよくわからなかった。アイヌの人たちもケルトの人たちのように文字を持たなかったので、記録は残っていないようだ。

私がアイルランドで見た風景の多くは上の写真のような感じ(カーリングフォード湾を渡るときに撮したもの)。 山があるが、木が生い茂っているという様子ではない。

司馬遼太郎さんの「愛蘭土紀行」に、泥炭のことが書かれていないかと読み直してみた。
「やがて、泥炭地があらわれた。
泥炭というのは草のなれの果てだから、これを地面からむしりとると、褐色の草の繊維がそのままのこっている。
 乾かして燃料にするのだが、森林の少ないアイルランドが燃料に事欠かなかったのは、いたるところにあるこの泥炭地のおかげである。」
(アイルランド紀行2、P88)

この泥炭も、自然保護の観点から採掘することが規制されるようになってきた。2030年からは燃料として泥炭を採掘しないようになっているそうだ(個人所有のものは別らしいが)。伝統と環境保全のはざまにある、と山下直子さんはおっしゃっていた。

これは国立博物館で撮したもの。その時は、ミイラだとはわかったが、英語の解説だったので詳しいことはよくわからなかった。
今回の山下直子さんの講義で「ボグボディ」というものであることがわかった。 泥炭の中では腐敗が進まず、なくなった当時のままで保存されているそうだ。
ミイラといえばエジプトのものしか思い浮かばなかった私には、少しショックを感じて写した一枚だが、やっとその意味がわかった。
多くのボグボデイが発見されているそうだが、どういう理由でこの人が、というところには諸説があるそうだ。今後の泥炭考古学の発展で新しい発見があるのだろう。

「泥炭の中に死体が」、という内容の推理小説があると山下直子さんの紹介があった。「アイルランドの柩」というもので、アマゾンでは古本だったので新しいものがほしいと難波や天王寺の本屋さんで調べたら、絶版扱いでお取り寄せとなっていた。
図書館にあったので予約をした。どんな小説かと興味が湧いた。

泥炭といえばピートの香り。
NHKの朝ドラ「マッサン」がスコットランドでウィスキーづくりを修行したということを思い出す。
アイリッシュウイスキーはスモーキーな香りがしないということで知られている。
大麦を発酵させるときに加熱するが、そのときにピート(泥炭)を使わないので、スモーキーな香りがつかないそうだ。
かつてはアイルランドでもピートを使ってモルトを作っていたそうだが、安く石炭が輸入されるようになり、現在では泥炭を使っていないことでアイリッシュウイスキーの特徴づけがなされたそうだ。これも山下直子さんの講義で仕入れた知識。
しかしアイルランドでもスモーキーな香りがするウイスキーが最近作られていると紹介があった。
Connemara コネマラ という名前で売られているということなので、早速アマゾンで注文した。それが上の写真。アイリッシュウイスキーらしく、
IRISH WHISKEY と書かれている。Eのあるウイスキーだ。
味は私の思っていたような強いスモーキーな香りではなかった。
馴染みのあるウイスキーの味である。オンザロックで飲む楽しみが増えた。
講義では植物や食虫植物の話、そしてアイルランドが生んだノーベル賞作家のシェイマス・ヒーニーさんの話もあったが、文学や植物のことは別の機会で触れることがあると思う。
次回のテーマは「牛とジャガイモと移民」。アイルランドとジャガイモは切ってもきれない関係。どんな勉強ができるか、楽しみだ。