「おとうさん」はいつから「おとうさん」?

おとうさん、という言い方はいつからだろう?

読売新聞のコラム「編集手帳」に「おとうさん」という呼称についての記事があった。

「オトウサン オハヨウゴザイマス ー 。『おとうさん』という呼称が広まったのは、1903年に尋常小学校に配布された国定読本がきっかけだった◆神永暁著『悩ましい国語辞典』(角川ソフィア)に教わった。それまでは、オトウサマ、オトトサン、オトッサン、オトッツアン、トトサン・・・と多岐にわたっていたようである。明治政府の意図は定かではないものの、偉そうでもなく、気さくすぎるでもない『おとうさん』が定着して110余年になる・・・・」

さっそくその「悩ましい国語辞典」という本を買ってきた。
なにが悩ましいのか? ちょっと気になる本のタイトルだった。

左がその本。
私が手に入れた本は、時事通信社からの出版だった。

新聞で紹介されていたのは文庫本になった本のようだ。

さて本書の「はじめに」こう書かれている。
「・・・現代語としては古語としての意味が失われていたにもかかわらず、何かのタイミングで再び古い意味が復活している語も存在するのである。
本書のタイトルに使った『悩ましい』も、まさにそのようなことばのひとつである。
現代語の『悩ましい』は、『悩ましい肢体』などのように官能が刺激されて心が乱れる思いであるという意味で使われることが多い。したがって、最近まではその意味しか載せていない国語辞典がほとんどであった。だから、ひよっとすると本書のタイトルに違和感をもった方もけっこういらっしゃるかもしれない。だが近年になって、『どちらを選択すべきか悩ましい問題だ』のように、どうしたらいいのか悩んでいる状態であるという意味の用法が広まりつつあるのである」

この辞典は、こんなふうなエピソードをあつめたものらしい。

さて、肝心の「おとうさん」を見てみると、

コピーの黒い影があって読みにくい部分もあるが、こう書かれている。

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「おとうさん」という呼称が急激に広まったのは、1903(明治36)年の第一期国定読本「尋常小学読本ー2」からである。それは、「タロー ハ、イマ、アサ ノ アイサツ ヲ シテヰイマス。オトウサン オハヨウゴザイマス」という内容である。
 それ以前は父親の呼称はどうであったのかというと、『日本国語大辞典』によれば、「オトトサマ→オトウサマ(またはオトトサン)→オトウサン」と変化したのだという。ただし、江戸時代には、オトトサマが変化した「オトッサン」「オトッツアン」が広く使われていたらしい。
・・・・(略)・・・・「おとうさん」の用例が文献上に現れるのは江戸後期の19世紀半ばくらいからである。おそらくその頃から江戸や東京で少しずつ使われるようになり、冒頭の「尋常小学読本」以後、20世紀になってから全国的に定着したのであろう。・・・・

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江戸時代後期の江戸の中層以上の町人や武家の間では「おとっさん(おとっつあん)」が使われ、一般庶民の間では「ちゃん」が使われていたそうだ。
上方では、中層以上の町人は「おとっさん」「おとっつぁん」を、一般庶民は「ととさん」を使用していたそうだ。

武士も町人も「おとっさん」と呼んでいたとは知らなかった。こんなことを知ってテレビや映画の時代劇をみると、またおもしろい。

「おかあさん」は、いつから?

では「おかあさん」という呼び方はいつ頃からなのだろう。この本で調べてみると、

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「おかあさん」はかなり新しい。『日本国語大辞典』によれば、近世に生まれた日常語で、「オカカサマ→オカアサマ(またはオカカサン)→オカアサン」と変化してできたのだという。・・・(略)・・・・

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この辞書によると、「おかあさん」は江戸時代後期に上方で使われるようになった語らしい。江戸ではあまり広がらず、明治に変わり20世紀になる頃から良家の子女の間で使われるようになったそうだ。
それまでは「おっかさん」「おっかあ」と呼んでいたとみられると書いてある。
この「悩ましい国語辞典」は読み物のように読める。帯にもあるように「人一倍がんばる」とは何倍がんばること? ふだん使っている言葉なのに聞かれると「えー」。チコちゃんに叱られそうなことがいっぱい載っている。

さて結論として、「おとうさん」も「おかあさん」も、明治の尋常小学読本によって広まったといえる。やはり教育の力はすごい、教科書の影響力はすごいと感じる。
教科書が「おっかさん」だったら、今頃の日本の学校や、テレビやラジオ、映画は「おっかさん」「おとっさん」の世界になっていたのだろうなあ。

 

 

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