点字と江戸川乱歩とビブリア古書堂②

前回は、「ビブリア古書堂の事件手帖」の第4巻で、江戸川乱歩作「二銭銅貨」にある点字の誤表記について書かれていることを知ったこと、それをもとにわたしの手に入った文庫本について調べようと思ったこと、そして岩波文庫について調べたことを書いた。
前回の岩波文庫以外の文庫を紹介しよう。

ビブリア古書堂の事件手帖の第4巻では、江戸川乱歩の間違った点字表記をヒントにして、事件を解決していくわけだが、私はどんな点字の間違い方をしたのかに興味を持った。

点字表記を見てみると、拗音の理解の仕方に問題があったと私は思う。
ビブリア古書堂の事件手帖によると、戦後の江戸川乱歩の全集においてその間違いを訂正したそうだ。ところが岩波文庫は2008年の出版なのにその間違いが訂正されていない。
編集付記として、初出の本文を底本としていると書かれている。初出の本文の間違いが訂正されないまま使われていることになる。

では他の出版社の文庫本はどうなっているのだろうか。出版の古い順に見てみよう。

左は講談社の江戸川乱歩推理文庫全65巻の第1巻の「二銭銅貨」。
昭和62年9月25日第1刷発行
と奥付にある。(昭和62年は西暦1987年。)
この文庫本には第1巻解題と題して中島河太郎さんの文章が載せられている。その文章の最後のページに小さな字で次のような文がのっている。

『江戸川乱歩推理文庫』は、江戸川乱歩の個人全集としての総合性、体系性、完璧性を期すため、生前の業績を細大漏らさず網羅した。今日の目を以て見れば、収録されたこれらの作品の中には、その表現・用語のうちに、考えさせられるものが無いではないが、戦前執筆当時の時代を反映した、著者独自の幻夢の世界であるとの観点から、また更に、時代を超えて残さるべき古典的名作であると信ずるが故に、初出時の原文のまま掲載した。(編集部)」

しかし、中島河太郎さんの「第1巻解題」のなかで、
「・・・二銭銅貨は直径3センチ余、厚さ4ミリほどの、どっしりした重い貨幣だった。発表当時はまだわずかながら流通していた。また発表時の点字の書き方に誤りがあったので、昭和36年版の全集で訂正された」と書かれている。
では、この講談社文庫ではどのような点字の書き方になっているのだろう。

上が講談社の「江戸川乱歩推理文庫第1巻 二銭銅貨」に出てくる点字を私が写したもの。星印は濁音符(次の音が濁音になることをしめしている)で、本文では「濁音符」と印刷されているが、文字が小さいので写す時に星印で代行している。
「拗音」の「チョ」「ショ」「チャ」「ショ」にはわかりやすいようにサインペンで囲んでみた。

上の表は私が作った正確な拗音の点字図。

江戸川乱歩は初版本では、左の図のように「ショ → シ+拗音符+ヨ」
「チョ → チ+拗音符+ヨ」と
考えていたようだ。
しかし講談社の『江戸川乱歩推理文庫第1巻 二銭銅貨」では正しく直されている。

しかも特筆すべき事は「チョ」「ショ」「チャ」と小さな「ョ」「ャ」が活字で印刷されていることである。点字2文字で「チョ」「ショ」「チャ」という一つの音を表していることがよくわかる書き方になっている。

それにあわせて暗号文も。たとえば「チ+拗音符+ヨ」の「南無阿陀、弥、阿弥陀」から、「弥、無阿弥陀」に変更されている。ほかの部分も変更されている。これで暗号文と点字の整合性がとられている。
左がその暗号文。私が写し取ったもの。
点字部分には正しく表記されているのに、左の暗号文に活字の誤植があった。
左の本文に丸印をつけてあるところである。

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左は新潮文庫の「江戸川乱歩傑作選」
奥付は
昭和35年12月24日 発行
平成21年4月20日 93刷改版
平成24年6月10日 98刷
となっている。
巻末に「表記について」という文が載せられており、最後に
「なお本作品集中には、今日の観点から見ると差別的表現ととられかねない箇所が散見しますが、著者自身に差別的な意図はなく、作品自体のもつ文学性ならびに芸術性、また著者がすでに故人であるという事情に鑑み、原文どおりとしました。(編集部)」
とある。
解説を荒 正人さんが書かれている。「二銭銅貨」が大正12年4月『新青年』に発表されたもの、という記述があるが、点字の間違いについては書かれていない。

星印は「濁音符」の代わりに私が記入したもの。
これをみると、岩波文庫にあった「拗音符」という記号がない。
「チョ」となる部分が、「チ」+「ヨ」になっている。
「ショ」は「シ」+「ヨ」、「チャ」は「チ」+「ヨ」で、拗音にはなっていない。
この暗号文、点字文には「拗音」がまったくないのだ。

本文の暗号文を見てみよう。
拗音符をあらわす「4の点」、南無阿弥陀仏を点字に当てはめた「弥」の文字が全く見当たらない。

上の講談社文庫の暗号文と点字に変換した部分をみくらべると、そのことがよくわかると思う。

この新潮文庫「江戸川乱歩傑作選」の初版は昭和35年だから、点字部分の修正前の発行になる。しかし、暗号文そのものが岩波文庫(「二銭銅貨」初版をそのまま使っていると説明がある)と違っているのはどうしてだろうか。どうも異本があるように思える。
しかし、平成21年に改版しているので、訂正の機会はあったと思うがそうなっていない。江戸川乱歩の本らしく、謎は今もある。
他にも文庫本があるのでしらべてみることにしよう。

 

 

 

 

 

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