ロボットは東大にはいれるか

映画「イミテーション・ゲーム」と
  「エキス・マキナ」

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 今年見た映画で、人工知能に関わるのものが二つ。一つ目が左のパンフレットにある「イミテーション・ゲーム」。サブタイトルにあるのが「エニグマと天才数学者の秘密」。私のブログで何回か紹介した天才数学者、現在のパソコンの生みの親とも言えるアラン・チューリングの伝記だ。
この映画ではチューリングの活躍と悲劇がうまく映画化されている。
私はドイツの暗号を解読する機械bombeというのはどんな機械か知りたかった。左のパンフレットで、チューリングの後ろにある機械がそれ。
ただこの映画ではbombeそのものの仕組みが詳しく説明されていなかったので、どうしてその機械が暗号を解読できるのかがよくわからなかった。もちろん私の勉強不足だが。
チューリングの考案した「チューリング・テスト」が現在も重要な提案として生きている。それは、機械を「知的」と呼ぶ基準とは何かということで、人間の質問者が機械と会話(音声ではなくタイプのように、相手が見えないようにして)をして、相手が人間か機械か判別できない場合、その機械が「思考」していると判断するというものである。
そのチューリング・テストをテーマにして映画化したのが次の映画。
「エクス・マキナ」である。

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「エクス・マキナ」とは「デウス・エクス・マキナ」という言葉からきており、「デウス・エクス・マキナ」とは「機械じかけの神」という意味らしい。

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カタログにある監督のインタビューから映画の内容を紹介しよう。
「プログラマーのケイレブが、あるテストのために邸宅に招かれる。人間が人工知能(AI)と対話するテストだ。これは、本来は検査者に相手が人工知能だと知らせずに対話を行ってもらい、人間が見破れなかったら、その人工知能は合格というテストなんだ。たがもしも、最初から相手が人工知能だと知らされていたら、どういう反応になるだろうか? しかも検査者が男性で、相手が女性の顔を持った人間型ロボットだとしたら・・・?」

話し相手の人工知能のロボットは、エヴァという写真のような人間型ロボット。顔だけが人間の顔をしていてボディはひと目でロボットとわかるもの。しかしその表情と動きはなんとも魅力的・・・。ストーリーはビデオが出ているのでそれでどうぞ。

さて、日本が取り組んできた人工知能のひとつ、東大ロボットの結果が出た。

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2011年にスタートした「ロボットは東大に入れるか」をテーマにしたプロジェクトは、今年のテストで8割の大学に入る力をつけたことがわかった。しかしプロジェクトはしばし凍結されることになったという。どうしてだろう。

東大ロボといっても、ロボットが試験会場に歩いていって、鉛筆でもって解答用紙に答えを書くのではない。入試問題をコンピューターが分かるように翻訳し、回答するわけだが、一体どのようにして回答を導くのだろう。
それは、演繹と帰納の二つの方法を使っている。
地球は太陽の周りを回っている(普遍的な前提)から、明日も東から太陽が登るというのが演繹法。
地球の公転という事実をしらなくても、ずっと毎日東から太陽が登っているのだから明日も東から昇るだろうと考えるのが帰納法。帰納法は膨大なデータの上になりたっている。コンピューターの発達によって、統計データが大量に処理することによって、明日どちらから太陽が登るかということが自信をもって言えるというわけだ。
大学試験も帰納法と演繹法を使うことによってかなりの問題が解けるようになったというわけだが、プロジェクトリーダーの新井先生は「いまの東大ロボットでは、東大入試は合格できない」と判断された。
それはどうしてか。「人間と同じようにできないものがある、それは推論と概念」とおっしゃる。たとえば「民主主義の利点を述べなさい」という抽象的な概念は、人工知能が苦手とするものだそうだ。
そして人間的な常識がまだまだ欠如しているそうだ。

英語の問題でこのような例がある。(ここでは英文ではなくて日本文に訳した形で紹介する)

Aくん「あと2,3分で本屋さんにつくよ」
Bくん「待って、◯◯◯◯◯」
Aくん「ありがとう。いつもなるんだ」
■◯◯◯◯◯に入る言葉は、どれが適当でしょうか■
①長いこと歩いたよ
②もう着くよ
③高そうな靴だね
④靴紐がほどけているよ

この問題は東大ロボットができなかった問題。
正答はもちろん④。しかし東大ロボット君は「長いこと歩いたよ」を選んだ。
これは膨大な文書データから、歩くことを書いた文章の前後には、「長い時間」というデータが多くあることを発見したからだと思われる。東大ロボ君には、人間はどんなときにお礼をいうかという常識がまだなかったわけだ。「Aくんが、Bくんの言ったことに感謝している」ということが理解できていないため、こういう問題が解けなかったといえるそうだ。

さらにこういう例もあるそうだ。

■ケーキをクリームとブルーベリーでデコレーションするとき、それをどう飾るかを英語で話しています、英語の会話を聞いて、その説明に一番あてはまる図をえらびなさい。

東大ロボはリスニングは得意だったが、この問題に答えられなかった。ブルーベリーで飾ったケーキを見たこともなかったからだ。人間なら見たこともないものでも判断できるが、データの全くない問題には手も足も出なかったわけである。

新井先生はこれらの結果を受けて朝日新聞に、コメントを寄せられた。それがこれ。

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 ■仕事奪われぬため、人間こその力磨け  

今年も「東ロボくん」の受験シーズンが終わった。今年ついに、関東ならMARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)、関西なら関関同立(関西、関西学院、同志社、立命館)と呼ばれる難関私大に合格可能性80%以上と判定された。だが、東京大学には及ばなかった。現状の技術の延長線上では、AIが東京大学に合格する日は永遠に来ないだろう。
 私は中高生向けの講演の冒頭では、必ずこう問いかけることにしている。
 「あなたは2021年に人工知能は東大に入れるようになると思いますか?」
 どの会場でも8割以上が「入れるようになる」と答える。みんな笑顔だ。AIがもたらす明るい未来を信じているのだろう。「囲碁の世界チャンピオンも破ったのだから、東大に入ってもおかしくない」と言う生徒もいる。
 「では」と私は続ける。
 「AIが社会で働くようになったとき、あなたは何をして働きますか? どうやってお金を手に入れますか?」
 一転して、動揺が走る。マイクを向けると「……ゴミ拾い、とか?」と絞り出すような声。AIが東大に入るような日が来たら、AIがゴミ拾いもしてくれるに違いない。その時、人間は労働から解放されて幸せになるだろうか。
 AIから得られる富が、地球上のすべての人に平等に分け与えられればそうかもしれない。しかし、そのような仕組みは、今までかつてこの地球上に築き上げられたことはない。むしろ、ITが社会に導入されて以降、経済格差は広がり続けている。  

 2010年、アメリカでのAIの隆盛を眺めながら、私はそのことを考えていた。AIはどこまで行き、どこで止まるのか。AIはどのように仕事を奪い、仕事を生み出し、社会を変えるのか。私がはじき出したのが、30年に現在のホワイトカラーの仕事の半分がAIに置き換えられるという予想だった(後に、それはオックスフォード大の研究グループが行った予測とぴたりと合うことになる)。
 私は数学者だから、こういうときには原理から考える。コンピューターは徹頭徹尾、数学でできている。AIに使えるのは論理と確率と統計だけだ。論理と確率はわかる。だが、いくら考えても、統計にどれだけの威力があるのか、はっきりしなかった。
 そこで考えた。AIに大学受験をさせてみたら、と。大学受験に挑ませたら、近未来のAIの可能性と限界がクリアになるのではないか。
 11年にプロジェクトが始まり、私は目標を立てた。3年でどこかの大学に合格させる。4年目には箱根駅伝に出るような名のある大学に、5年目は国公立大学に。そして6年目に、MARCH・関関同立に合格させたいと思った。可能性は五分五分だろう。
 その目標を口にした時、私は恐怖に似た緊張感を覚えた。研究者としては誰も見たこともないAIを開発したい。一方で、AIが難関大に合格する能力を備えた場合、ホワイトカラーの仕事の半分は確実にAIに奪われるだろう。AIを大胆に導入し、コスト削減に成功した企業の利益率が上がる一方、雇用を守ろうとした企業は市場から退場を迫られるだろう。
 こう話すと生徒から責められた。
「なぜ、私たちの仕事を奪うかもしれないAIの研究をするのですか」
 私がやめても世界の企業や研究者はAIの研究をやめはしない。ならば、AIの可能性と限界をきちんと見極め、対策を取ろうではないか。AIには弱点がある。それは彼らが「まるで意味がわかっていない」ということだ。
 数学の問題を解いても、雑談につきあってくれても、珍しい白血病を言い当てても、意味はわかっていない。逆に言えば、意味を理解しなくてもできる仕事は遠からずAIに奪われる。私は次のように講演を締めくくる。
 「みなさんは、どうか『意味』を理解する人になってください。それが『ロボットは東大に入れるか』を通じてわかった、AIによって不幸にならない唯一の道だから」
    
*  あらい・のりこ 62年、東京都生まれ。一橋大卒、米イリノイ大院修了。広島市立大助手、国立情報学研究所助教授を経て、同研究所教授。 

(ゴチック、文字の拡大は私が行った)

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新井先生は東大ロボくんに、人間の常識や意味理解のチカラをつけるには、さらに膨大なデータの収集と時間と労力がかかると言う。そこに力を注ぐよりも、もっと大事なことがあると言われる。
それは「子どもたちの読解力の低下」。

次のような問題がある。

■仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアにおもに広がっている。
上の文章を読んで、次の設問に答えなさい。

オセアニアに広がっているのは(       )である。

この東大ロボのプロジェクトの一環で、全国1000人の中高生にこの設問に答えてもらう読解力の調査がなされた。
結果は中学生の約4割、高校生の約3割が間違った答えをしている。
(正解はもちろん、キリスト教)
新井先生は、
「文脈を理解できないAIのほうが(中高生より)文章を読めているという事例がある。
東大ロボの性能を上げるよりも、中高生の読解力を向上させるほうが、国民として直近の課題だ」とおっしゃる。

そういうわけで、ロボットに東大に合格させる努力をさらに続けるよりも、これまでの成果と努力をを子どもたちに注ぐことに舵をきることになったようだ。
ペーパーテストで判断される学力では人工知能に負けるのはわかりきっている。
当たり前のようだが、人間だけがもっている力を育てることが大事なわけだ。

 

 

 

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