科学者の卵たちに贈る言葉

実験が失敗したら大喜びしなさい

IMG_20131005_0001この本は一番最近に読んだ本。
おすすめは、少し仕事に慣れてきて、仕事の面白さがわかってきた、辛い日もあるけれど夢もちよっぴり持てそうという人にどうぞ。

この本には「江上不二夫が伝えたかったこと」というサブタイトルが付いている。江上不二夫さんという人は申し訳ないが私はこの本を読むまで全く知らなかった。江上 不二夫さん(えがみ ふじお、1910年- 1982年)は生化学者で戦後日本の生化学を引っ張ってきた人。リボ核酸(RNA)分解酵素の発見や生命の起源の研究で知られているそうだ。また国際生命の起源学会会長等を務めたというその道では有名な人ということを知った。その江上さんに指導してもらった笠井献一さんが書いた江上語録がこの本。

だからといって、この本は科学者や生命科学を研究している人だけが読んでわかるという本ではない。何か自分にはしたいことがあって、次には何をすればいいのかと考え始めている人だったら誰が読んでも得るところがある本と思う。

IMG_20131005_0039左がこの本の目次。理科系の人が書いた本とは思えない、と受け止める人も多いだろう。ところがそうではないと私は思った。江上先生の話のバックにあるのは「仮説、実験、理論」という、自然科学でもっとも大切にしていることが流れている。この考え方は社会科学でも共通することだと私は思う。
たとえばタイトルにあげた「実験が失敗したら大喜びしなさい」のところを見てみよう。
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「君はこういう結果になるだろうと予想していたのに、そのとおりにならなかったので失敗だと言っているけれど、それは君の予想が間違っていたんだよ。それとも何か知られていない現象があって、それが原因なのかもしれない。こんなことはまだ誰も見つけたことがない。これは未解決になっているこれこれしかじかの問題をとく手がかりになるかもしれない。だから君の実験は大成功だったのだ。君は大喜びしなきゃいけない。もっといろいろな角度から調べて、新発見だということを確実にしなくちゃ。それにはこんな実験をやるのがいいと思うよ」
先生はどんなおんぼろ実験でも、最高にポジティブな解釈を提示できる人だった。・・・(略)・・・しょんぼりと肩を落としていた発表者が、いつの間にか背筋がしゃんとなってくる。自分は研究に向いていないと落ち込んでいた奴が、その日の午後には大発見を夢見て、鼻歌まじりで実験をやっているのが見られるのだった。」
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私はここに学問・研究・仕事の基本と、人を導く基本があるように感じた。
失敗しても大丈夫、がんばりなさい、あなたならできるから、とそっと(あるいは、バシッと)背中を押してくれる人が必要なんだと。

IMG_20131006_0001それは甘えさせている、と勘違いする人がいるがそうではない。
この前に「研究を初めて三ヶ月たったら、自分の研究について世界でいちばんよく知っている人間になってなければならないよ」とアドバイスがある。
著者の笠井献一さんは「自分の研究については、背景、意義、実験法、実験結果の解釈など、いつどんなことを聞かれてもちゃんと答えられるように、十分に勉強し、深く考え、最善を尽くして実験しなさい。自分が第一人者と自負できるレベルに三ヶ月で到達しなさいということだ」と書いている。(写真は裏表紙にある本の内容紹介)

この本は私が全く知らない生化学の実験などを例に上げながら説明されているところがあるが、そこの部分はざっと読んでも江上不二夫さんの伝えたかった(と私が思うこと)はよくわかる。「ピンチをチャンスに」、よく言われ・よく聞く言葉だが、私はもうひとつ付け加えたい。「チャンスの前髪をつかめ」、ポジティブにいこう。
本文110ページの本、少し背中を押してくれる本だと思う。